お願い、意識を失わせて
病室の中でわたしは叫んでいた。助産師さんは入れ替わり立ち替わりいろんな方がきて、あ、この助産師さんまた来たなぁ、1日経ったのだな、と思ったりした。
病院に着いてから20時間以上経っていた。お願い、意識を失わせて、と何度も何度も何度も思ったとき、子宮口が開いたので分娩台に乗りましょう、となった。
ゴールがみえると、人は頑張れるのだ。自分でスッと立ち上がり、分娩台に乗った。
そして、あっという間に出産した。
産まれたばかりの赤ちゃんを抱いて、わたしは呆然としていた。
「おめでとうございます」
「……」
「よかったです、安産で」
「え……え?」
「よかったです」
「安産……」
「そうですね、よかったです」
「これが、安産、でしたか」
「赤ちゃんもしっかり体重ありますしね」
「先生」
「なにがですか?」
「この痛み、嘘でしょう、痛みが」
「お母さんてすごいですよね」
「痛すぎます、聞いていませんでした」
「皆さんそうおっしゃいますけどね、翌年また出産しにいらしたりしますよ」
「……」
「忘れたって、おっしゃって」
「先生」
「なんですか」
「わたしは、絶対に、忘れません」