『カラマーゾフの兄弟』ならイワンが神について語るシーンだし、『ノルウェイの森』なら火事をふたりでベランダから見ているシーンだし、『キャッチャー・イン・ザ・ライ』ならホールデンが将来の夢について語るシーンだ。
『容疑者Xの献身』なら最後の咆哮のシーンだし、『蹴りたい背中』なら最初に主人公が寂しさについて考えるシーンだし、『博士の愛した数式』なら博士が息子をルートと呼び始めるシーンだ。
どんな面白さの小説でも、ぐっとくるシーン――つまりは名場面が積み重なって、面白い小説になっているのだと思う。
なぜ、小説の名場面には注目しないのか
でも、それにしては、不思議だ。たまに映画やアニメ、漫画などの「名場面集」は見るけれど。不思議と、小説の「名場面」にスポットライトがあたることは少ない。
なぜだろうか? 「名場面」というと、少し軽薄に見えるからだろうか。でも「名台詞」はよくあるのに! なんでみんな、小説の名場面には注目しないんだろう。
名場面さえあれば、その小説はもう、勝ったも同然なのに!
この連載では、小説のあらゆる「名場面」について解説したい。
なぜそれが名場面なのか。
なぜそれが読んでいてぐっとくる場面なのか。