死にがいを求めて生きているの

著◎朝井リョウ
中央公論新社 1600円

「オンリー・ワン」が
よしとされる時代に生まれて

札幌市内の病院で、南水智也という大学生が昏睡状態を続けている。意識は戻らないものの、周囲の音は聞こえているかもしれないと医師は言う。

昏睡の原因をつくった事件に立ち会った堀北雄介は、智也の幼稚園からの友人だ。目覚めたときに傍にいてやりたいとの思いから、雄介は彼を頻繁に見舞う。自分の毎日が〈自動的に、運ばれていく〉ようなものに感じられている看護師は、これほどまで献身的になれる2人の関係を羨ましく思っている。

そんな「現在」から始まるこの物語は、5人の男女が智也や雄介との関わりを順に語るという形式で、2人の子ども時代から痛ましい事件の発生までを辿り直すかたちで進んでいく。成績や勝負ごとで競い合うより、誰もがかけがえのない「オンリー・ワン」の存在であることがよしとされた時代に、智也と雄介は育った。だが雄介はそうした風潮に逆らい、周囲と軋みを起こしてでも、自分が没入できる「生きがい」を求め続けた。

学生寮でのジンギスカンパーティ、略してジンパの復活に熱中したかと思えば、自衛隊に入るとも言いだす雄介。やがて雄介の「生きがい」探しは、〈日本では古代から「海族」と「山族」が常に対立してきた〉という、オカルトじみた「海山伝説」を信じるところまでエスカレートしてしまう。

この「伝説」ほど荒唐無稽ではなくとも、民族や宗教を根拠とする非寛容や分断は、歴史上なんども繰り返されてきた。終わったばかりの「平成」という時代にも、私たちはそれを数多く目撃してきた。本作がいささか戯画的なのはそのためだ。いまなお昏睡を続ける智也は、そんな時代の終わりを待っているのかもしれない。