急な呼び出しが増えてきて

伯母が元気なうちは、平穏だった。が、数ヵ月前、84歳になった伯母が肺炎で入院。病院から電話が来て、「軽い症状ですが、念のため来てください」。やむなく駆けつけると、医師からの病状説明は30分に満たなかった。しかし、飛行機の最終便を逃してしまった沙織さんは編集者に平謝りし、イラストの締め切りを1日遅らせてもらったという。

数週間前には、伯母が自転車とぶつかる事故が勃発。今度は警察から呼び出された。すり傷程度で済んだものの、大事を取って検査入院。病院や警察、加害者とのやり取りで2日間拘束された沙織さんは、その間に依頼があった緊急の仕事を泣く泣く断ったそうだ。

「フリーランスの仕事は信頼第一なのに……。伯母に『仕事が立て込んでいるときだけ、母や妹に頼んじゃダメ?』と打診しましたが、『あの子たちに、有事の対応能力があると思う? オロオロするばかりで、こちらが不安に陥るに決まっている』と。もう諦めました」

とはいえ、それほど遠くないであろう伯母の死後に残される、膨大な量の身辺整理が恐ろしくてたまらない。

「マンションの売却、相続手続き、母や妹が『掃除しなさい』とぼやくのも無理ない、モノで溢れかえった部屋の片付けなど、すべて私主導でやらないといけないんですよね……。こうした怖い想像は、もうしばらく遮断していたい。夢に出てきて睡眠不足になりそうだから」

と、沙織さんはため息をついた。

 


ケース2 靖典さんの場合

強欲な従兄弟が突然現れて

 

沙織さんが考えないようにしている現実を、はるかに超えた状況に直面したのが、靖典さん(48歳)だ。

独身で身軽な靖典さん。大企業に勤めていた10年ほど前、母親の兄で、やはり独身で子どももいない78歳の伯父から、「俺ももう年。少しゆっくりしたい」と、経営するアパートの実務管理を任された。

聞けば、不動産会社を仲介しているため、家賃の納入状況のチェック、月に1度の周辺の見回り、修理工事の立ち会いといった程度の仕事で済む。サラリーマンのかたわらでもできるし、月額5万円の報酬もくれるという。靖典さんは快く引き受けた。

「伯父は、妹のひとり息子である僕を、わが子のようにかわいがって。小さい頃はよく母に『靖典、借りるぞ!』と言っては、動物園や遊園地へ連れて行ってくれたんです。だから、できる範囲のことならなんでも手伝いたいという気持ちでいました」

それからしばらくして、同居していた両親が立て続けに他界。寂しさに苛まれた靖典さんは、両親の思い出が染み込む住まいを引き払った。さらに、脱サラして東京から静岡県へ移住。かねてからの夢だった漁業を始めた。約5年前のことだ。

その一方で、伯父のアパート管理業務は続けていた靖典さん。月末には上京し、アパートの見回りついでに、必ず伯父の様子伺いにも行っていたという。

「菓子折り持参で近所の方に『伯父をよろしくお願いします』とご挨拶。『何かあったら、ご連絡ください』と、携帯番号も渡してね。そのくせ、伯父が倒れるとか死ぬとかってことを、なぜか深く考えていなかったんです。伯父は80歳を超えても、頭も足腰もしっかりしていて、『医者の世話になったことがない』が口癖。確かに、僕が知る限り大病したことはありませんでしたから」