「老後」がリアルじゃない
桐島 私自身は、親の死に目に一度も会っていません。父も母も、私が50歳前後で、病気であると知っていながら、外国に行っていた間に亡くなったので。今思えば、もう少し親孝行したかった。あまり親が子に迷惑をかけないというのも、ちょっと寂しいものです。
上野 よく皆さん、ピンピンコロリがいい、とおっしゃる。でも本人は楽かもしれませんが、突然死されると、残された家族に心残りが生まれます。やはりゆっくり“下って”いただき、その間に多少、手間暇がかかると、残されたほうも「見送ることができた」と納得できるんですね。
桐島 本当にそう思います。
上野 今日は「ほどほどの迷惑」がテーマですが、「ほどほど」とはどの程度か。なかなか難しい点ですね。
桐島 子どもの人生を破壊してしまったら、元も子もありませんものね。
上野 たぶん子どもの一番の仕事は、親の介護の司令塔になることだと思います。介護保険制度のおかげで、使える医療・看護・介護資源ができました。それをどう選び、組み合わせるのか。人間の生き死にかかわることなので、この意思決定は負担の重い仕事です。
桐島 我が家の場合、きょうだい3人、とても仲がいいので、相談して考えるんじゃないでしょうか。
上野 3人お子さんを産んだのは、お子さんにとってものすごい贈り物だと思います。今、ひとりっ子の家庭が増えていますが、ひとりで親の生き死に関する意思決定をしなくてはいけないつらさの持って行き場のなさは、見ていて本当に気の毒です。
桐島 今回、次女と住む場所は、長女と長男の家の近くを選びました。
上野 恵まれていますね。そこまで育て上げられた、ということですね。
桐島 子どもで苦労したことがなかったのは幸いです。誰ひとり、大病もしませんでしたし。
上野 きっとお子さんたちは、親がこれだけがんばって自分たちを育ててくれたと、実感していると思います。それは有無を言わさない力ですよね。ただ桐島さんは、現役感がバリバリで。どうやらまだ、「老後」がリアルじゃないようですね。(笑)
桐島 考えてみたらもう80ですから、リアルなはずなんですけどね。もうちょっと体が弱ってきたら、少しは深刻に考えるでしょう。
上野 この後、桐島さんが老いの坂をどう下っていくか。そのモデルを、後に続く私たちに見せてください。
桐島 でも、ボケちゃったら発信もできませんし。
上野 いえいえ、ボケた姿もぜひ見せてください。それが生き方を発信してきた方の責任だと思いますから。
桐島 老いさらばえた姿を見せるのは恥ずかしいけど、さんざん私生活を売り物にしてきたのだから、今さら逃げも隠れもいたしません。死ぬときまでどうぞお付き合いください。