引き金を引くのは、ほとんどが家族

上野 今は桐島さんも、娘さんも、お元気でそれぞれ自立しておられる。もしご自身が要介護になったら、どうなさいますか? 介護保険などでいろいろ支えてもらえるなら、ほどほどの迷惑をかけながら、そのまま家にいてもいいとお考えなのか。

桐島 娘さえ、それでよければ。ただ介護状態にもよりけり。人がひとり、私のために生活を犠牲にしなくてはいけないくらいだったら、施設に入ったほうが合理的ですから。

上野 じゃあ、いずれは施設という選択も、視野に入れているんですね。

桐島 もちろん施設を否定する気はありません。参考のためにいくつか見学に行ったこともあります。

上野 私は基本、在宅派です。介護保険のおかげで、家にケアに来てもらうという選択肢ができましたから、家から出ていく理由は何もないと思っています。

桐島 確かに快適な施設に入ろうと思ったら、それなりにお金もかかりますしね。

上野 在宅でも、介護保険の使い方次第では、子どもがおむつを替えたりしなくてもすみます。ただ親世代は皆さん、身体が不自由になることに加え、認知症が不安なようです。

桐島 確かに私も、それは怖いです。自分が自分でなくなるわけですから。なるべく最後まで、私は私としての、ある程度の知性は残したい。でも、なってしまったらしょうがない。

上野 調査によると、同居家族のいる認知症の方と、独居の認知症の方では、独居の方のほうが穏やかで、問題行動を起こしにくいという結果が出ています。

桐島 そうなんですか!

上野 独居の方のほうが、物取られ妄想も嫉妬妄想も少ない。それは、問題行動の引き金を引くのは、ほとんどがご家族だから。せかす、叱る、責める。それが影響する。子どもは、親がしっかりしていた頃のことを覚えています。あのお母さんがこうなっちゃったかとショックを受けるし、つらいんですね。だから、なかなか現実を受け入れられない。

桐島 なるほどね。で、つい、せかしたり、叱ってしまう。

上野 やはり、それまでの親子関係が影響しますよね。関係性は、長い時間をかけて作られるものですから。

桐島 そういう意味では、うちはそこそこうまくいったと思います。

上野 ご著書の中では、自分は家族が好きだともお書きになっていた。

桐島 そうですね。自分自身、いい家族の中で育ったと思っていますので。今回の本にも書きましたが、家の没落や自死者が出るなど、不幸も多かった家ですが、それだけに家族が助け合ってきました。

上野 だからご自身でも家族を作ることにためらいがなかったんですね。

桐島 あの時代に未婚の母というのは、けっこう乱暴な子どもの作り方ですが。(笑)

桐島洋子さん