相手の良心につけ込む、無言の圧力

「母の住民票を移して介護保険を申請、要介護1と認定されました。私は週の半分がテレワークになったので、訪問介護やデイサービスを利用すれば仕事と介護が両立できるかなと思ったんです。でも実際には、身体的な疲労より精神的な負担が大きいですね」

母は歩行障害があるが、食事や着替えなどはひとりでできる。わがままを言われることもないというが、それならなぜ「ずるい」のか。美沙さんはその理由を、「選択や決定を人任せにして、責任をなすりつけるから」と言った。

たとえば「お金がちょっと足りなくて……」と言ったきり、「だから貸してほしい」とはならない。仕方なく美沙さんが「ウチで出そうか」と言えば、「美沙がそうしたいならそれでいいよ」と、あたかも娘が主導したようにしてしまう。

「同居したときもそうでした。母はこうしたい、こうしてほしいと意思表示をするのではなく、『こんな体でこれからどうしたらいい?』『田舎にはいい病院がないからどうしよう』と、私から答えを引き出そうとする。暗い顔でメソメソされたら、『私がなんとかするわ』って話になりますよね。相手の良心につけ込むというか、無言の圧力をかけるというか……」