父の恐ろしさを思えば母をかばうしかない
母に対して「イヤだ」「できない」、そんなふうに言えないどころか、先回りして期待に応えようとする。実のところ美沙さんは、幼いときから母の気持ちを読み、顔色を窺うことが身についていた。
「亭主関白だった父は、深酒しては家族に暴力を振るう。台風の最中、母娘で家から逃げ出したこともありました。家に戻ると、母は父に『美沙が逃げたいと言ったから』って言い訳する。確かに母から『どうしようか』と聞かれて、『逃げよう』と言いました。子どもとしてはそう言うしかないのに、母は私のせいにして事を収めようとするんです」
それでも父の恐ろしさを思えば母をかばうしかない。自分が我慢すれば救えるのだと無理にでも思い込んだ。すると母のほうはますます娘をあてにして、娘は必死に応えるという悪循環だ。
「母と離れていた間、過去は封印していられた。でも一緒にいると、あのときはくやしかった、こんな目に遭わされたって、嫌な感情がどんどん蘇ってきてしまう」
もう少ししたら「九州に帰って」「私には介護は無理」、そう告げようと思う。一方で「親孝行できるのは今しかない」、そんな葛藤も覚えて、心は揺れ動くという。