82年生まれ、キム・ジヨン
訳◎斎藤真理子
筑摩書房 1500円
女の共感は国境を越える
韓国で2016年に刊行され、100万部を超える売り上げで社会現象にもなったフェミニズム小説が、18年末ついに日本でも発売。わずか1ヵ月で5刷5万部を突破して、大きな話題となっている。
主人公のキム・ジヨンは33歳。結婚3年目で出産し、会社を辞めてワンオペ育児の生活に。ある日彼女は自分の母親や年上の女友達が憑依したかのような言動を見せ始め、困惑した夫に連れられて精神科を訪れる。病理解明のため精神科医が彼女の半生を聴き取った記録、というのが本書の体裁だ。そこには彼女の祖母の時代、そして母親世代が生き抜いてきた社会を経て、彼女自身が女性に生まれたために経験しなくてはならなかった、さまざまな困難と苦渋が綴られることになった。
多くのエピソードが日本人にとっても他人事ではなく、読みながら記憶が蘇る瞬間もある。出席番号が必ず男子から始まるのを〈ただそういうもの〉だと思わされていたこと。性犯罪者に反撃すれば〈恥ずかしげもなく〉と叱責される、成績が良くても女子は企業に採用されない......。特に、ジヨンが厳しい就職活動の末に入社した会社で、どんなに努力しても出口のない迷路に立たされていると感じたことや、その後の家事労働と育児をめぐるあれこれは、心からの共感とともに痛みと怒りを覚えてしまう。
ジヨンは救われるだろうか。女性として生まれた者が抑圧されずに生きられる世界はいつか実現するだろうか。本作は安易にそれを描いたりしない。だが、目の前の不当な苦しみを〈ただそういうもの〉とは思わず、変えていく可能性を想像し行動することが未来に繫がるのだと、教えられた気がした。