豊かさ幻想
戦後日本が目指したもの

著◎森正人
角川選書 1700円

「豊かさ」を目標にしてきた日本人

衝撃的な図版が掲載されている。1950年代の少年むけ雑誌の記事だ。町や家庭のあらゆるものがプラスチックに置き換えられた「ゆめの国」が紹介されている。〈文化44がすすみ、生活が向上するにつれて〉人間がつくりだした〈新しい物質〉という解説で、道路、建築物、鉄道のレール、人工衛星までもが今後プラスチックになると書かれている。いま読むとかなりお寒いが、当時はこんなイメージが強い訴求力をもったのだ。

日本人は常に「豊かさ」を目標にしてきた。もっと便利に、もっと豪華に。そのイメージはつねにごく近い未来に投影され、われわれは「もう少しで夢のような未来がやってくる」と信じることで労働に耐えてきた。この本は、日本人のそんな精神構造と、おりおりに描いてきた(いまとなっては非現実的な)夢のかずかずを容赦なく正視させる、切れ味のよい評論だ。

わたし自身、小学生のころに「もうすぐ公害なんて克服できる」「感染症はじきに消滅する」などと聞かされた。あれから半世紀ちかく経って、われわれは妊婦が風疹の危険にさらされる事態すら逃れえていない。原子力は夢のエネルギーともうたわれたが、その夢の代償があまりにも高いことも知った。

人よりも先に「新しさ」の青写真を広げて商売するのが幸福になる道だ。そういう考え方が日本を貧しくしてきたのに、日本人はまだ同じ夢を見続けている。オリンピックに「経済効果」があるならば、ブラック企業で働く人や独り育児に追われる人を多少なりとも救えるはずだが、そんな希望を誰が抱いているだろう。〈分かりやすい、そして聞き心地のよい物語に抵抗する必要がある〉という著者の言葉に深く共感する。