スマホを離さない幼い母親に教育を

その後も予期せぬ妊娠をした女子を預かるケースが相次ぐ。いつからか「乳幼児なら廣瀬さんに」という流れになり、千葉県で初めて複数の子どもを預かる「ひろせホーム」が誕生したのだ。

これまで預かった子は70人以上。その8割は乳幼児の頃からホームで育つ。巣立った子たちも、「お母さん」と慕うタカ子さんのもとを訪ねてきては、悩みや不安を話し、励まされて帰っていく。

「父が私たちに向かって『お前たちは親がいるからいい』と言っていた気持ちが、今ならよくわかる。だってホームにやってくる里子たちは、それまでどんな暮らしをしてきたのかの情報がほとんどないので、毎回未知との遭遇です。生まれたばかりの赤ちゃんはひょっとして重篤な病気があるかもしれないから、ちょっとした発熱でも医者に連れていく。細やかに目を配ってあげなければなりません」

近年、若年層の妊娠の増加で、退院してすぐに母子でやってくる里子も増えている。この傾向はコロナ禍でより深刻になり、今年に入り10代のシングルマザー2人を迎えた。スマホを離さない幼い母親に、子育てだけでなく生活のイロハから教える事態になっている。

里子を育てることに命を懸けるタカ子さんと、夫の正さん(77歳)。これまで里親を続けるかの危機に直面したことはなかったのだろうか。同じく里親になった長女の柴田子さん(45歳)が答える。

「父も協力的ですが、次から次へと子どもたちが来る終わりのない状況に、大病も経験しているし、『俺はいつまで小さい子と手をつないで散歩するのか』なんて怒ることもあります。でも、そう言いながら毎日のように一緒に散歩しています(笑)。親もいい歳ですし、私たち家族が大阪から千葉に帰ってきました」

誉子さんは里親登録をし、ひろせホームの補助員を務め、3代にわたる里親になった。小学生の長女が「将来、里親になりたいな」と話すことも。またタカ子さんの次男は埼玉県で里親をしている。

「子どもたちを通して、いろいろな世界が見られること。それが里親の面白さかな。表の世界も、裏の世界も全部見られる。借金取りや虐待の現実も、里親になって初めて知りました。子どもたちはアクシデントに直面しても一所懸命生きている。成長すればまた別の悩みや葛藤も出てくるけれど、社会に出て立派にそれぞれの役割を担って暮らしています。娘が帰ってくれたので助けを借りながら、死ぬまで子育てができるのは嬉しいですね」とタカ子さん。

いつしかひろせホームについた名は「母子の駆け込み寺」。24時間、365日休みなし。今晩も児相から「廣瀬さん、お願いできますか」と緊急電話が入るかもしれない。

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20年前に里親の取材を始めた頃、実子がいてもいなくても、他人の子を育てるなんて篤志家か余程ボランティア精神がなければできないと思っていた。ところがここ10年で子育てをめぐる状況は一変した。虐待の増加、格差の広がり、そして貧困。子どもを個人で育てることが難しい世の中になってきているのではないか。ならば実の親以外の社会の助けがもっとあっていい──。今回登場した女性たちもそれを実感しながら、自然体で里親を続けている。家族が多様化した今、里親への理解と関心が深まることを願う。

 


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