大家殿は宵っ張りときているから、私たちが白河夜船のときにジリンジリンと電話をかけてくる。私はつい、「お世話になっています」と電話の前でぺこぺこ頭を下げてしまう。

やれ、エサがちらばっていた、2ヵ所目にエサが置いてなかったなどとクレームを言われたことを夫に報告すると、夫は真っ赤な顔をして、「いや、ちゃんとした」と私に怒りを向ける。「もう断ればいいじゃない」と言おうものなら、「食べていくには仕方ないんだ」と私を睨む。そのうえ、そこらに置いてあるものを投げつけるのだ。

挙げ句の果てに、冬場から春先まで「寒い寒い」と震えて風呂に1日3回も浸かるようになった。今までは倹約して、週に2、3回しか入っていなかったのに。相変わらずゴミを漁っているからか、なんだかいつも、ケモノの臭いがする。

 

家に押しかけてきたしょんぼり男の正体は

猫のことだけならまだしも、古本拾いの仲間が私たちの住むアパートにまで来るようになったのには困っている。ある雨の日、夫と2人でお茶を飲んでいたら玄関のブザーが鳴り、慌てて出ていくと、そこにはみすぼらしい格好をした男がしょんぼりと立っていた。

「何ですか」と聞くと、「ダンナいますか?」と言う。呼ばれた夫は「あっ」という顔をして、玄関に出ていき、財布の中から千円札を取り出して男に渡した。「すんません」という声が聞こえる。男が帰ると、夫は照れくさそうに戻ってきた。

「なに?」と聞くと、「金を貸した」。えっ? なんであんたが金を貸すのか? そんなたいそうな身分なのか? 私は心の中で叫んだ。断ればいいじゃないか。

話を聞けば、その日暮らしをしているホームレスの人たちは雨の日に収入を得られないので、夫を頼ってきたらしい。言われてみれば、雨の日に本を捨てる人はいないだろう。夫だって人様に貸すお金など持っていないのだが、ホームレスよりはましということか。「1000円で何を買うんだろうね」と聞くと、「酒とタバコだろう」。

昼間から酒? 断れよ。