「サカナイフ」で魚をさばくと、出刃包丁を使うのに比べて、手順でまごつかないうえ、力を込める必要もほぼない。だから物理的・心理的両面の“恐怖感”から解放される(撮影◎北村森)
専門家が独自の目線で選ぶ「時代を表すキーワード」。今回は、商品ジャーナリストの北村森さんが、「サカナイフ」を解説します。

誰でもさばける!?
魚離れ時代に異例のヒット

東京・豊洲市場での水産物取扱量が、開場から半年で築地時代を6.9%下回ったそうです(『毎日新聞』2019年5月19日付)。消費者の魚離れを指摘する声も聞こえてきます。

まあ確かに、魚を煮たり焼いたりって手間がかかりますし、丸のままの魚を買ってさばくなんて絶対無理と感じている方も多いはず。

でも、その一方で……。今、ひそかにヒットしているものがあるんです。商品の名は、「サカナイフ」。北陸・富山のTAPPという中小企業の手になるナイフで、魚をさばいたことのない人も、苦手な人も、この1本でたやすく可能になるといいます。

 

本当かよ?って思いますよね。しかも値段は1万5120円(税込)とかなり立派です。

それでもすごく売れている。まずクラウドファンディングで支援を募ったら、なんと約1300万円も獲得しました。そして18年に一般発売した途端、生産が追いつかず品薄続きに。

購入して試しました。まずはアジ。やすやすとさばけました。次はもっと大きなサバ。身がでかいほうがやりやすいかも。さらに難しそうな鯛でも、3分強で難なくいけた。手順はこうです。まず刃の外側でウロコを取る。次に切っ先を使って背と腹に切り込み線を入れ、頭を落としてから切り込み線に刃を滑らせて身を開く。背骨に刃を当てながら少しずつ身を削ぎ落とせば完了。刃が波状になっているので、初めてでも骨に身をさほど残さずにおろせました。

一度覚えれば、あとは簡単です。切り身を買うより割安だし、身やアラを余すところなく使えて献立の数を増やせるのもいい。

思えば、この「サカナイフ」は、“コンプレックス解消型商品”なのですね。だから、ここまでの反響を呼んだのだと感じました。