長久堂
無言参り

川端康成の小説『古都』で
生き別れに暮らす双子の姉妹が
初めて出会う場面の舞台が、
祇園祭の無言参り。美しくも
ひたむきな夜の願掛けを
淡い色合いの菓子の形に

七月の京都といえば祇園祭。山鉾(やまぼこ)巡行がよく知られていますが、実は一日の「吉符(きっぷ)入り」、十日の「神輿洗い」などさまざまな神事が行われています。祭りの中心行事は、十七日の夜に八坂神社から四条京極にある御旅所まで神様が三基の神輿で御渡りになる「神幸祭」と、同じく二十四日の夜にまた御旅所から神社へお戻りになる「還幸祭」です。

 

その七日間の夜に行われるのが「無言参り」。八坂神社から四条大橋を渡り御旅所まで、誰とも口をきかずに七往復するという願掛けで、もとは祇園の舞妓さんたちの間で知られていました。長久堂のこの菓子はそんな風習を、外郎(ういろう)に八坂神社の神紋である「三つ巴」を捺すことで表しています。ほんのりとした薄紅と水色が、恋愛成就に効くともいわれる無言参りの淡き恋心を表現しているかのようです。