自由になった先には

さらに言えば、デジタル化による「モノからの離脱」は、人々がビジネスをはじめたり、様々な活動をしたりすることのハードルを格段に下げました。商売・ビジネスにおいても「誰でも」を実現しているのです。

実店舗を出しての営業であれば、準備作業も開業資金も開店スタッフも、様々な物理的リソースが必要だったので、ビジネスをはじめるというのはそれなりの覚悟をもって行うものでした。

しかし、ネット上で店舗を構える場合は、それらのリソースのほとんどがそもそも不要であるか、ネット上で簡単に安価で調達できるため、開業ははるかに手軽な「誰でも簡単に」できるものになりました(それが実際にビジネスとしてうまくいくかは全くの別問題ですが)。

さらにはネットの世界では商品やサービスについて「誰でも」レビューができます。以前の買い物では、私たちは特定のプロ(書評家やグルメ評論家など)が書いたレビューを基に選択していたのが、いまでは「大量の素人」が書いたレビューやレーティングを基に選択するようになっています。

このようにデジタル化は、Ever化という自由化を私たちの生活にもたらしたことになります。見えない世界が大きくなるというのは、このようにモノからの離脱による圧倒的な自由度という副産物をもたらしているのです。

さらにデジタル化は、単にこのような「出張や旅行の荷物が少なくなった」という物理的な変化の他に、それをはるかに上回るインパクトを私たちの生活にもたらしています。それは主に「見える世界」ではなく「見えない世界」においてなのです。

 

※本稿は、『見えないものを見る「抽象の目」――「具体の谷」からの脱出』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。


見えないものを見る「抽象の目」――「具体の谷」からの脱出』(著:細谷 功/中公新書ラクレ)

本書は、ベストセラー『地頭力を鍛える』によって広く認知される「地頭力」や「アナロジー思考」、「Why型思考」等の思考力に関する著作で読者を獲得してきた細谷氏の最新書き下ろし。著者が思考力を鍛えるために用いる「具体と抽象」のテーマに当てはめながら、この「見えないもの」を見えるようにするための考え方を提供します。いくつもの事例を読み進めることで、これまで見えなくなっていた視野が広がり、日々のコミュニケーションや仕事の計画等に関する悩みを解消するとともに、未来に向けて将来像を描くためのツールになる1冊です。