見えない世界が見える世界を支配する状況が、コロナ禍で加速している――(提供:イラストAC)

デジタル化が実現したもの

このような見えない世界の拡大を、近年圧倒的に加速しているのがデジタル化の急速な普及です。デジタル技術を活用して社会や企業を抜本的に変革する「デジタルトランスフォーメーション」やその略称であるDXという言葉は、コロナ禍におけるオンライン化とも重なって、この2、3年で一気にIT業界以外の人にも浸透しつつあります。

前にも触れましたが、スマートフォンは私たちの生活を一変させました。私たちの日常は、ほとんどがスマホを中心に回っていると言ってもよいでしょう。20年前には物理的に存在していたさまざまなものが、いまやスマホのアプリにとってかわられはじめ、大部分が物理空間なしでも完結する世界が広がりつつあります。

例えば旅行や出張の荷物が少なくなっています。そもそも物理的な紙などの物量が激減しつつあることは、現実世界の目に見えるインパクトとしても感じられるところですが、それ以上に大きいのは、私たちの生活様式や価値観もこれに伴って大きく変わっていることです。

物理的なものが少なくなると、それらに縛られることが少なくなり、私たちの生活の自由度が上がります。買い物を例にとれば、単に「スマホでモノが買える」という表面的な違いの他に、「いつでも」「どこでも」買えるようになったことは生活の変化として大きいでしょう。

かつては「お店の開店時間内に」「お店に行って」しかできなかった買い物が、「通勤時間に」「電車の中で」でも「夜中の3時に」「ベッドの上で」でも、まさにいつでもどこでもできるようになりました。

また、例えば書籍の購買等、従来は一部の書評家という専門家による書評を参考にしていた一般消費者は、いまやカスタマーレビューや一般の人たちのブログやSNSの投稿等を参考にするようになり「誰もが評論家」になれるようになっています。

つまり、一言で表現すればデジタル化によって私たちの生活は、「いつでもどこでもなんでも誰でも(Whenever /Wherever /Whatever / Whoever)」という、いわば「Ever化」してしまったのです。