「見えない世界」が「見える世界」を支配する

この背景には、他ならぬコロナ対策のために各国の政府が大量の国債発行等によって前代未聞とも言える膨大なマネーの供給をしたこともありますが、これとて所詮「目に見えない」世界の反映でしかありません。

さらに皮肉なことに、ようやくコロナ禍が欧米等のいくつかの国で収束しかけてきた2022年になって、このような政策の反動としてのインフレが米国を中心に世界中で起きることになり、ウクライナ紛争による燃料費や生活費の高騰とあいまって、人々の生活は混乱に陥りました。

つまり、リアルの世界の状況が悪化していたコロナ禍の中ではバーチャルな財政や金融は「史上最高」となり、コロナ禍が落ち着きはじめた頃には「史上最悪」の株価の暴落や物価高といった目に見えない世界の悪化がはじまったのです。

これら一連の状況は、戦争やコロナ禍による食料や燃料、あるいは電子部品等のサプライチェーンの分断や混乱という、「見える世界」による影響の大きさを改めて私たちに思い知らせることとなったと同時に、コロナ禍という稀に見る災害の影響との組み合わせによって、見える世界と見えない世界の対比を世界中に考えさせたとも言えます。

このような「乖離」の一方で、金融という見えない世界が見える世界をも支配していることは、いまから10年以上前、2008年に起こったリーマンショックの時にも全ての人が認識することになりました。

リーマンショックそのものによって直接的に目に見える変化を体感した人はほとんどいないと思いますが、実際にはそれによって引き起こされた世界的な不景気で実体経済も悪化し、目に見える世界も大きな影響を受けることになりました。さらに言えば20世紀の「バブル崩壊」も全く同様でした。

つまり、これら金融やマネーの世界の拡大による「見える世界」と「見えない世界」の乖離は、単に乖離しているわけではなく、逆に見えない世界が見える世界を支配していると言っていい状態にもなっているのです。

もともと物々交換という見える世界の価値の抽象化によって生まれたお金という概念が、次々と抽象化することで、デリバティブや仮想通貨という、見える世界とは極めて乖離した巨大な見えない世界を作り上げ、むしろ見えない世界という抽象が、見える世界という具体を支配するという逆転が起こっているのです。

結局、最後までコロナ禍に苦しんだ業界は飲食業界と旅行業界等、完全に物理的なモノの消費や、人やモノの物理的移動という世界で、少しでもデジタルやバーチャル等、目に見えない世界での代用が利く世界は、いち早くコロナ禍を脱して通常通りの売上や利益を取り戻していたことになります。