子どもを望んで不妊治療を選択する人もいる。しかし、その全員が授かるわけではないのが現実だ。母になることを願いながら、不妊治療をやめた3人の女性は、どう決断し、どのように「その後」を生きているのか──。ジャーナリスト・河合蘭さんが取材します。1人目の和代さんは、40歳で子宮筋腫の手術を受け、厳しい現実と向き合うこととなりました。

妊娠なんてしていられない〈和代さん(58歳)の場合〉

大手企業をクライアントに持つアートディレクターの和代さん(仮名=以下同)は、いわゆる“妊娠適齢期”に、「今、妊娠してしまったら大変なことになる」と思いながら、仕事に邁進していた。

「仕事はひとたび受けたら納品まで気が抜けません。自分で立ち上げたデザイン事務所ではスタッフも雇っていました。彼らの生活も私の肩にかかっているし、妊娠なんてしていられないと思ったんです」

30歳で結婚したとき、子どものことが頭をよぎらないわけではなかったが、「努力すれば、35歳くらいになっても何とかなるのでは」と考えていたという。それなのに、30代半ばで避妊をやめても、なかなか子どもを授からなかった。

排卵誘発剤を注射し、超音波検査などで見極めた排卵日にタイミングを合わせる「タイミング法」を10回以上繰り返しても、妊娠反応は出ない。通っていた病院は友人からの口コミで決めたのだが、体外受精などの高度治療はできないクリニックで、医師からほかの治療が提案されることはなかった。

和代さんは仕事があまりに忙しくて別の病院を探す心のゆとりがなく、同じことを繰り返すしかない日々を送っていた。

そうこうするうちに、以前からあった子宮筋腫が、放置すれば危険なほどの大きさになり、和代さんは大きな病院へ転院し切除手術を受けた。筋腫は大きさによっては妊娠の妨げにもなる。このとき、すでに40歳になっていた。