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わが子のため、と耐えて続けた結婚生活なら、子どもが巣立ったいま、いよいよ解放されてもよいのではないか。そんな思いが頭をよぎった人は少なくないだろう。しかし、期せずして別れを踏みとどまった妻たちがいる。家族を突然襲った危機が、思わぬ絆になったからだ。優子さん(仮名)の場合、その転機は夫の会社の倒産だった(取材・文=武香織)

女性の影がいつもあった夫

約3年前、夫の経営していた建設会社が倒産。ふたりの息子が地方の大学へ進学して寮生活となり、「経済面以外は、親離れしたな」とホッとしていた時期だっただけに、優子さん(パート・54歳・仮名)は奈落の底へ突き落とされたような気分に陥った、と言う。

当時は専業主婦だったが、傷心のあまり床に臥す不甲斐ない夫を尻目に、息子たちの学費稼ぎのためスーパーとコンビニでパートを掛け持ち。休日なしで、1日10時間も働いた。

「もう必死でした。でも、あるパート仲間が『夫ったら、自分の仕事が不調だと、私がイキイキと働くのが気に食わないらしくて。わざとマズイと食事を残したりするの。腹が立つ!』と愚痴っていたんです。それを聞いて、うちの夫はそれとは正反対だな、と思うようになって」

「男子厨房に入らず」で亭主関白そのものだった夫だが、優子さんが仕事から帰ると、やわらかく「お疲れさま」と声をかけてくる。焼きそばレベルの簡単料理ながら、ちゃんと食事も用意。妻の買い物には必ず付き添い、荷物持ちをするなど、気持ち悪いほど労ってくれるようになったという。

「まあ、この状況で捨てられたら困る、といった保身もあったでしょうが、一番大きかったのは絶対、『過去の女関係の懺悔』だったはずです」

会社の経営が順調で羽振りがよかった頃の夫には、女性の影がいつもあった。

「夫は案外、真面目な性格なので、『浮気』というより常に『本気』。どんなに外で遊んできても、家ではよき夫・父親として振る舞うような器用さがまるでなく、朝帰りもたびたびでしたし、たまに家族と夕食をともにしていても、『仕事だ』と言い訳しながら、彼女とであろうメールのやりとりに没頭するような始末。

当時思春期だった息子たちは、そんな父親を完全に無視。父親の在宅中は自室に消えるようになりました。私に嫉妬心がなかったと言えば、嘘になる。風呂場や布団の中で号泣した夜は、一度や二度じゃないです。

ただ経済的な不安から夫を問いただすこともできず、平穏を演じていました。『いつか慰謝料をたっぷりもらって離婚してやる!』と心で唱えながら、ね」