短編画廊
絵から生まれた17の物語

編◎ローレンス・ブロック
訳◎田口俊樹ほか
ハーパーコリンズ・ジャパン 2200円

ホッパーの名画のもとに集まった
錚々たる作家たち

なんて贅沢で豪華な本なのだろう。そしてなぜ今までこういう作品集がなかったのだろう。読後、そんな喜び、静かな興奮に包まれた。

本書は、アメリカを代表する画家エドワード・ホッパーの作品に着想を得たという作家たち17名が、それぞれに選んだ絵画から紡いだ物語のアンソロジーだ。編者のL・ブロックはホッパーの作品について〈絵の中に物語があること〉、〈その物語は語られることを待っていること〉を強く示唆していると語り、この本のアイデアが生まれたという。彼の呼びかけに集まったのが文豪S・キングやJ・C・オーツ女史、「ハリー・ボッシュ」シリーズで人気を博すM・コナリーなど錚々たる面々。「ガーリー・ショウ」(M・アボット)、「夜のオフィスで」(W・ムーア)は、ホッパー作品ならではの肉感的な女たちの匂い立つような描写からはじまる。「午前11時に会いましよう」(J・C・オーツ)に登場するのは、裸にハイヒール、というあられもない恰好で窓際の椅子に座っている女性だ。不倫相手を待っているようだがなかなか来ない。

名画《ナイトホークス》からインスパイアされたという名編「夜鷹ナイトホーク」(M・コナリー)では、絵の中の男について〈鼻は鋭く、鳥の嘴(ビーク)のように曲がっていた。夜鷹(ナイトホーク)だ〉の一文が印象的。何度、ホッパーの絵画の頁に戻り、男の鼻をまじまじと見直しただろう。

ハードボイルド、クライム・ノベル、ミステリー、詩的寓話など、17の短編のジャンルは多岐にわたる。そのすべてが傑作、秀作揃い。改めてホッパーの独創性、そして作家たちの想像力、創造力の凄さに感じ入った。手元に置いておきたい、何度も読み返したい名著である。