談春 でも今のエンターテインメントは、まったく逆でしょう。映像から音から総動員で、これでもかというくらい五感を刺激する。

酒井 説明過多なまでに、観る人にサービスしていますよね。

談春 そういう意味で、落語にとって難しい時代になりました。

酒井 でも、やっぱり落語には力があると思うんです。私が30代の頃、父が突然亡くなりました。たまたま葬儀の翌日の落語会のチケットを買ってあって、一緒に行く人は「こんな状況だからやめようか」と言ってくれたけれど、私は「いや、行く」と。

そうしたら、閉じていた脳がパカッと開いたような気がしたんです。噺に集中して、笑ったりじーんとしたりしているうちに、一筋の光が射してきた。落語は人を救う力を持っているな、と実感しました。

談春 どんなに悲しい時も、つらさや痛みがある時も、ユーモアが空気を変えるよね。

酒井 そんな体験もあって、私は落語を信頼してるんですよね。談春さんは、どんなふうに落語と出合ったんですか。

談春 子どもの頃から演芸番組で落語を見るのが好きで。それに、とにかくよくしゃべる子どもでね。4歳か5歳の頃、銭湯へ行く道ですれ違う人に「こんばんは。いいお月夜で」とか言ってたくらい。

その日の相撲の取組と、どの技で勝ったかを覚えていて、銭湯でしゃべったりしてさ。「おっ、相撲の兄ちゃんが来た」なんて言われてました。