「面倒くささの先にある世界や、人と人の差異が呼び起こす騒動を描く落語に接することは、子どもたちにとっても、人間関係のトレーニングになると思うのに……。」

「好き」になる力が道を開く

酒井 『赤めだか』は、談志さんへのラブレターのような本でした。好きな人のもとで、好きなことを仕事にするつらさはありませんか。

談春 まわりを不幸にします。高校辞めちゃったし、二親は泣くし。だから、僕には戻るところがない。クビだと言われたら師匠と刺し違えようと思っていたんです。

酒井 それほど思い詰めていた。

談春 徒弟制度というのは非合理なもの。理不尽な怒られ方もしたしね。僕らの時代は、師匠を妄信する。洗脳と言ってもいいくらいだった。それで潰れるような個性は個性じゃないって。

酒井 談春さんは、「好き」になる力が並外れています。

談春 談志がこう言ったんですよ。「おまえは談志の弟子なんだ。おまえが思っている以上に、談志の弟子ってのは偉いんだ」って。17歳だから真に受けちゃった。「本当に惚れてるんなら、死ぬ気で尽くせ。それで振り向いてもらえないんだったら、そんな奴に惚れた自分を恥じろ」とも。ただし、「恋愛はその限りにあらず」だって。(笑)

酒井 うふふふ。