時代を見据えて自分を追い込んでいく

酒井 そうやって行きつ戻りつ、いろいろなことを乗り越えて、もう40年ですね。

談春 もうちょっと頑張ればよかった。

酒井 えっ?

談春 談志は70代で体調を崩したんです。だから僕の落語家生活を60年と想定して春夏秋冬に分けてみたら、もう秋から冬に向かっているところ。自分の才能や努力の量を考えると、希望に満ちた明るい冬は考えづらい。

偶然と幸運のおかげでここまで来たけれど、立川談志の落語に対する愛情や努力を見ているから、自分は落語に惚れられてはいないとも感じるしね。

酒井 でも、談志師匠であれ落語であれ、好きな相手を振り向かせる不断の努力をなさっています。

談春 俺が落語家になったことで、落語という芸能にプラスがあったかどうか。常に疑ってしまうところが、好きを仕事にするつらさかもしれないね。

酒井 難儀な相手に惚れましたね。

談春 談志はこんなことも言ってた。「もはや伝統でも技術でもない。落語は『個』だ。おまえが語るということが出ていないと、どんなに噺がよくても、時代に、あるいは日本人に負けるよ」と。

酒井 まさに今、落語も落語家も大変な時代を迎えているんですね。

談春 とにかく、自分を追い込むしかない。だから「いままでの芝浜、これからの芝浜」と銘打った独演会をやろう、なんて無茶を考えるんでしょうね。

酒井 楽しみにしています!

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●立川談春独演会●公式サイト
 3/11(土):燕市文化会館
 3/12(日):長岡リリックホール・シアター
 4/1(土):アクリエひめじ 大ホール
 4/2(日):高槻城公園芸術文化劇場 トリシマホール
 4/28(金):町田市民ホール