転機っていうことで言うと、結構細かく、気持ちがこう揺れてるときに、天からのメッセージに導かれてるみたいな感じがあるんですね。(撮影:岡本隆史)
演劇の世界で時代を切り拓き、第一線を走り続けるスターたち。その人生に訪れた「3つの転機」とは――。半世紀にわたり彼らの仕事を見つめ、綴ってきた、エッセイストの関容子が訊く。第4回は落語家の春風亭小朝さん。小朝さんは気持ちが揺れているとき、天に導かれているような感覚を覚えることがあるそうでーー。(撮影:岡本隆史)

<前編よりつづく

マルチプレイヤーとして開花

小朝さんの俳優としての一面。NHK大河ドラマには『篤姫』『軍師官兵衛』『麒麟がくる』と三本も出演しているし、2003年には新宿コマ劇場で『恋や恋浮かれ死神』で、落語界初の座長として出演した。

――ええ、まさに第三の転機は、実はこれ、芝居に関係してるんですよ。大西信行さんという脚本家から声がかかって、『宝暦相聞歌(えどのこいうた)』という、(尾上)菊五郎さんと三田佳子さん主演のお芝居に太鼓持ちの役で出たのが僕の初舞台。新橋演舞場(84年)でした。

その何日目かに、いきなり僕の楽屋に、ガッチリした体形のおじさんがズカズカと入ってきたんです。おはようもこんにちはもなく。「君、いいじゃないか」っていう感じ。

「誰、この人」と思ったけど、まぁ偉そうだから「ありがとうございます」って言って。で、楽屋の中見回して「頑張れよ」みたいな感じで出て行った。あの人誰、って訊いたら、松竹の永山(武臣)会長(当時は社長)だったんですよ。

それで演舞場のお芝居が終わるときに、一か八かで、「演舞場で独演会できますか」って会長さんに言ってみたら、「いいよ、やってみな」って言われて、で、やりました。で、やってOKな感じだと思ったんで、「今度、歌舞伎座でできますか」って言ったら、「ああ、やりな」って。

それで歌舞伎座二回目かのときに、自分でもやばいと思った独演会をやっちゃったんですよ。永山会長がすごいのは「しばらく時間おこうか」っておっしゃったことなんです。それでちょっとインターバルをおいて、次の独演会。

そしたら「これから好きなときにやっていいよ」って言われました。「じゃあ、三日連続はどうでしょう」って言ったら、「やってみな」って。その後、京都南座からも声をかけていただいたし、越路吹雪さんを見てた関係で、一番好きな日生劇場にも出られましたしね。

十何年か前、僕が「越路吹雪物語」という落語を自分で作って高座にかけたら、うちの母親がそれを聞いて、「あんた覚えてないと思うけど、子供のころ越路さんのコンサートに連れて行って、通路脇に座ってたら越路さんが降りてきて、あんたの頭、撫でたのよ」って。