先代の(林家)三平師匠は必ず「坊っちゃん」と声をかけてくれて、「じゃあ、坊っちゃんに向けて小噺を」「ハーイ」なんて答えてね。(撮影:岡本隆史)
演劇の世界で時代を切り拓き、第一線を走り続けるスターたち。その人生に訪れた「3つの転機」とは――。半世紀にわたり彼らの仕事を見つめ、綴ってきた、エッセイストの関容子が訊く。第4回は落語家の春風亭小朝さん。自らが歩んできた道のりをふりかえれば「春風亭柳朝師匠のところに入れたというのが大きい。もし師匠でなければ、と思うとぞっとする」とのことで――。(撮影:岡本隆史)

落語は別の脳なんですよ

春風そよぐ朝のように爽やかな語り口で、満席のお客を幸せな気分にして帰してくれる春風亭小朝さん。一方では、舞台やテレビで活躍する俳優としての存在感も大きい。さまざまな楽器やら茶道やら観相学やら、その探究心はとどまるところを知らないが、最近は菊池寛の短編小説をみごとな落語に仕立ててみせた。

それにしても、あのまったく淀みのない滑舌のよさと言ったら。

――落語脳、というものがあって、普通に噺が入っちゃうんですね。入門する前に、寄席に一日いて何十席か聞くともう何席か頭に入ってるんですよ。帰り道にその中の気に入った噺を喋ってて。とりあえず大筋ですけど、でも一応会話になってて。

それで、もしかして学校の授業も、日本史なんか、八っつぁんと隠居の会話にしたらいいかと思ってやってみたけど、これは全然入らなかった(笑)。落語は別の脳なんですよね。だから入門するときに、もう百くらい入ってましたから、頭の中に。

 

ヨチヨチ歩きのころの小朝さんは、父親の膝の上で落語を聞いた。寄席で噺家が話しかけるとちゃんと答えた、と前に聞いたことがある。

――「坊や、よく来たね」「コンニチワ~」なんて答えてましたね。少し大きくなると一人で行って、前から二番目くらいにいつも座ってると、先代の(林家)三平師匠は必ず「坊っちゃん」と声をかけてくれて、「じゃあ、坊っちゃんに向けて小噺を」「ハーイ」なんて答えてね。