「あまりに熱がこもり過ぎて歯を食いしばっていたのか、お稽古中に奥歯が4つに割れてしまったのは衝撃的でした」(撮影:藤澤靖子)

お稽古中に奥歯が4つに割れて

だからこそ、子どもたちに生の声を届けたい。その思いが、全国各地の幼稚園で童謡を歌う「童謡で伝える会」の活動につながりました。今年で7年目になります。日本の四季、親を敬う気持ち、小動物に対する愛。これが童謡の三本柱です。ところが現代人には、童謡のもつ日本語の豊かさがなかなか伝わらないというのが現状。

たとえば「だれかさんがだれかさんがだれかさんがみつけた」という歌詞で始まる「ちいさい秋みつけた」という童謡があります。多くの方が言葉通りに“小さな”秋だと受け止めますが、作詞を手がけたサトウハチローさんは、季節の移ろいを表現しておられると、姉と私は理解しています。

夏からいきなり秋になるのではなく、太陽の光が日ごとに柔らかくなってきた、今日は木々の緑がまた黄色くなってきたと、少しずつ秋の気配に包まれていく。季節の移ろいから情緒を感じ取り、豊かな感性を育んでほしいという思いを込めて歌うことが大切なのです。

多くの親御さんが、お家で読み聞かせをしておられるそうですが、早口で読み聞かせても、子どもの心には届きません。童謡も同じ。ゆったりとした気分で絵本を読んだり、童謡を歌ったりしてあげてくださいと、親御さんにはお伝えしています。

童謡が誕生して100年。北原白秋と山田耕筰の友情を描くとともに、童謡の必要性を伝える映画『この道』(2019年)が公開されました。作品の中で姉と私は「からたちの花」を歌っております。一人でも多くの方にご覧いただき、童謡の素晴らしさ、豊かさを見つめ直していただければ幸いです。

先ほどの自動支払い機がいい例ですが、人とかかわるのが煩わしいとおっしゃる方も目立ちます。それは生きていることが煩わしいというのと同じことだと私には感じられるのです。私は歌を通じてたくさんの方と出会い、拍手に包まれる中で大きなエネルギーをいただいて、人生を輝かせてきました。この心のキャッチボールを途絶えさせることのないよう歌い続けていくことが、自分の使命だと思っています。

私自身も人間の持つ力の限界に挑戦していきたい、これが今後の課題の一つです。2018年、東京・紀尾井小ホールで『夢の花―蔦代という女』という舞台を通じて一人芸に挑戦したのもその一環。歌はもちろんのこと、三味線演奏も舞踊も私自身が行いました。

あまりに熱がこもり過ぎて歯を食いしばっていたのか、お稽古中に奥歯が4つに割れてしまったのは衝撃的でした。その時の歯は綺麗な箱に入れてお守りにしています。(笑)