寛子 『噓八百』には、主演の中井貴一さんが呼んでくださいました。その少し前、中井さんが出演したドラマに、私も所作指導として参加させていただいたんです。その時、「小雁さんどう?」と尋ねてくださったので、「『仕事したい、したい』言うてます」とつい漏らしたら誘ってくださって。

ところがいざ脚本を読むと、セリフが多くてとても覚えられそうにありません。お断りしようとすると、中井さんは、「そんなの現場で何とでもなる。誰でも通る道なんだから、小雁さんにやる気があるなら、ぜひ出演してほしい」と言って背中を押してくださいました。ありがたいことです。

小雁 そうやなあ。

寛子 小雁さんは、テレビのお仕事も好きやけど、やっぱり一番落ち着くのは、舞台みたい。

小雁 そう。お客さんが目の前にいるほうがやりやすい。誰もおらんところでは、ちょっとな……。お笑いは、お客さんの顔を見ながらするのでね。

寛子 私と小雁さんが出会った舞台『裸の大将』の巡業公演が、まさにお客さんに合わせた舞台でした。お兄さんの雁之助さんが座長、小雁さんが副座長。幕が開いてわずか数分で、雁之助さんが「今日の客は重たい。巻くで」。小雁さんも「ああ、わかった」って。

巻きサインが出ると、お芝居のテンポが上がって、セリフも省かれて、全体で15分ぐらい短くなるんです。当時、私は一番下のぺーぺーやったから、気づいた時には「あ、終わった」(笑)。臨機応変にお芝居を変える二人を見て、すごいなあと思いました。

小雁 そうそう。舞台はお客さんと一緒に作るもんや。

寛子 小雁さんと雁之助さんは、ほんま〈あ・うん〉の呼吸でした。

小雁 小さい頃は、ようけんかしたけどね。

寛子 去年、小雁さんが大衆演劇「都若丸劇団」に飛び入り出演した時は、「そうはいきまへんで!」と大声でセリフを言いながら舞台に登場するなり、次のセリフどころか、カンペの存在自体も忘れてしまってね。やのに、全部アドリブで客席を沸かせたんです。

座長さんが、「瞬間的なアドリブはやろうと思ってできるもんじゃない。小雁さんの中には、これまでの演技がすべて入っているから、自然に出てくるんでしょうね」とおっしゃっていました。

小雁 ふふふ。