何かが終わったとき、人はどう考え、どう生きるべきか

小説の主人公、田代壮介は東大卒でメガバンクに勤めるエリート。妻の千草は専業主婦だったが、壮介が40代後半にラインを外されたころ、美容師の資格をとり、キャリアを築き始める。
そして、壮介が関連子会社を定年退職するところから物語が始まる。つまり「終わった人」となり、もがき苦しむ壮介と、それを眺める千草の関係性が物語の骨子となっている。
壮介は自分が「終わった人」として見苦しくジタバタしたくないのに、いったいどうすればいいのかわからない日々。「一緒に温泉にでも行こう」と千草を誘っても千草には千草の生活があり、そうそう付き合ってはいられない。
かみ合わない中でいろいろな事件が起きる。
「終わった人」…何かが終わったとき、人はどう考え、どう生きるべきなのだろうか。

「定年はまだ区切りでしかない」と言う中井さん

「人は二度死ぬっていいますよね、肉体がなくなるときと、みんなの記憶から消えるとき」と中井さん。「それと同じように、人は二度『終わる』と思うんです。一度目は会社を定年になるなど実務的に終わったとき。そして二度目は、自分の夢やいろいろな欲がなくなったとき」。つまり人間は夢や欲がなくなったときに本当に終わるのであって、定年はまだ区切りでしかないと話す。

「中井さんの中にある哲学や考えが、セリフに乗って出てくる。それを待ってるのも演出」と笹部さん。
今回の舞台のキャスティングについて、まずは中井さんにぜひとオファーした。
すると中井さんが「台本を読んで、相手役には、キムラ緑子さんしかいないなと感じました。彼女はマインドを七変化させることができる女優。いつもならもし「スケジュールがあわない」などと言われれば「あ、そう」で済ませるんだけど、今回はけっこう強くお願いしました」(笑)
緑子さんは「今回の舞台ではいろいろな人を演じ分けるのが不安ですが、どうにかするしかない!」といい意味で開き直っている。

「私は自分でも終わってるのか、始まってるのかまったくわからない」と言うキムラさん