『ヒッキーヒッキーシェイク』 著◎津原泰水

 

不器用で魅力的な魂の物語

天性の詐欺師と称される竺原(じくはら)は、カウンセラーとして受け持った年齢性別ばらばらの〈ヒキコモリ〉4人をインターネット上で連携させ、〈人間を創る〉という謎のプロジェクトを企てる。うさんくさくも軽やかな竺原の言動に振り回され、それぞれの事情で引きこもっていた4人の日常は変化していく。

テンポのいい語りと予想外の展開に、読者も気持ちよく振り回される。タイトルはビートルズも歌った楽曲「ヒッピーヒッピーシェイク」のもじり。引きこもりの俗称〈ヒッキー〉を、ヒッピーという一般社会からの自由な逸脱者のイメージに重ね、そんな彼らが出会って〈シェイク〉されることで、思いがけない方向へ未来が切り開かれる可能性を描く。

だが、そういう物語の魅力とは別のところで、本書が注目を集めることになる騒動が今年5月に起こった。作者が百田尚樹『日本国記』の記述内容についての疑念をツイッターで繰り返し表明したところ、同じ幻冬舎から単行本が出ていた『ヒッキーヒッキーシェイク』の文庫化が、刊行間際で中止された、というのである。文庫は出版社を早川書房に移して刊行されることになり、経緯を作者がツイッターで明らかにしたことから、表現と出版をめぐって意見の錯綜する「炎上」状態に至ったのだ。

では、『ヒッキーヒッキーシェイク』は本来どれほどの作品なのか、大多数の興味を引く結果になったのは当然。現在3刷4万部の売れ行きだ。騒動はとりあえず収束したようだが、出版文化への不信はくすぶったまま。そんな現況を背景に読めば、幾重にも面白さが深まるのではないだろうか。理不尽な社会の圧に屈して流されるのではなく、自分なりに抗って生きる不器用で魅力的な魂の物語なのだ。

 

『ヒッキーヒッキーシェイク』
著◎津原泰水
ハヤカワ文庫 820円