実住よりも投資家狙い

そもそも27平米の物件は、投資用ローンしか使えませんから、実住よりも投資家狙いとも言えます。余剰資金のある資産家や投資家が、投資のために新築マンションを買い、本来ならそこで賃貸経営をするのでしょうが、今はすぐに売り抜けて利益を確定しているということです。まるで大規模な「瀬取り」です。こうした動きは、マンション市場全体をさらに押し上げることになります。資産家や投資家ではない、普通の実住の庶民はいよいよ、自分の住むための家が買えなくなりそうです。

不動産投資家にとっては、不動産投資はフローとストック、二つの利益が見込める投資です。売った時に買った時との差額「売買益」で儲けるのと、所有中に賃貸に出して利回りで儲けるのと。新築物件投資の場合、ひとたび賃貸に出してしまうと「オーナーチェンジ物件」になって投資家にしか売れません。実住用のほうが金額は高く売れます。いま、実住用の築浅物件が不足し、中古相場が値上がりしている状況では、賃貸に出さずに数ヵ月から1、2年寝かせても、十分利益が出ると考えて、新築未入居のままで所有しているのでしょう。

背景には、いま、あまりにも不動産市場が高騰していることがあります。新築全体の価格高騰を受けて中古市場の価格も上がり、地域によっては新築のほうが割安な物件も出ています。新築は土地の仕入れ値に材料費や人件費、デベロッパーの利益などを加算して「積み上げ方式」で値付けをします。なので、例えば、晴海の大規模開発のように、仕入れ・計画から完成までに時間がかかった物件の場合、当初予定した販売価格が、その後の市場高騰によって周辺の中古に追い抜かれ、相対的に安値に見えることになります。

こうした割安感のある物件では、新築を買ってすぐに中古として売って儲ける、という投機的な動きが出ます。実際、別の営業マンに聞いた話では、「新築マンションを購入した人が、新居に引っ越さず、そのまま中古で売って1000万円のもうけが出た」とのこと。それでも住民票だけ移せば、住宅ローンを組んだ銀行も問題ないのだとか。以来、割安感のある新築では、購入者に「購入してすぐ売るのはやめてほしい、せめて1年は住んで」とお願いしている、とのことでした。

K氏がこの部屋の事情を説明してくれました。「こちらの部屋のオーナーさまは資産家で、いくつも不動産をお持ちですが、ここはすぐ現金化したいみたいです。当初は賃貸に出すか売りに出すか迷っていらしたんですが、賃貸はお勧めしなかったんです」。ひとたび誰かが入居すると、マンションは「中古」になります。賃借人が出ていったタイミングで売るにしても、ただの中古になってしまい、新築未入居とは値付けが全然変わってきます。