「どうせ赤字になるなら、気持ちよく」と腹をくくりました。

『ピエタ』との出会い

会社を立ち上げる前の10年間は、『読売新聞』の読書委員として書評を書いていました。もともと本を読むのが好きで、テレビ局の楽屋や移動の車中ではいつも本を読んでいたけれど、それほど多読というわけではなくて。読書委員を務めていたおかげで、たくさんの本に出会えました。

2011年、読売新聞の担当の方が、「どうしても小泉さんに読んでほしい」と、大島満寿美さんの小説『ピエタ』を勧めてくれました。読み始めたら、止まらなくて……。

<中略>

会社を設立して間もない頃から、この作品の舞台化のために動いていました。実際、ある脚本家の方と具体的に話を進めていたのですが、残念なことにその方がご病気で他界されて。その後、劇作家で演出家でもあるペヤンヌマキさんが引き受けてくださり、満を持して2020年に上演することが決定。ところが今度はコロナで延期せざるをえなくなったのです。

すでに劇場を3週間おさえていたので、中止すればキャンセル料が発生します。2ヵ月ほどスケジュールを空けてくださっていた役者さんたちに、補償金も払いたい。「どうせ赤字になるなら、気持ちよく」と腹をくくりました。劇場はキャンセルせず、演劇、朗読、音楽などを日替わりで届ける企画に切り替え、『ピエタ』も朗読劇として上演しました。

<中略>

『ピエタ』の舞台化は、きっといつかできるだろうと信じていました。だからなかなか辿り着けなくても、ネガティブな気持ちにはなりませんでした。そしてようやく今年の夏、実現することに。

結果論ですが、今がベストタイミングだと思います。以前は流して読んでいたところが、しっかりと目に入ってきましたし。作品自体が、時期を選んでくれたのではないか、という気さえします。

<後略>