イラスト:大塚砂織

 

元・車両基地で最新料理に舌鼓 〜ロシア発

2019年2月にオープンしたモスクワで大注目のスポット。それは、19世紀にできた馬車鉄道、路面電車、トロリーバスの巨大な車両基地を大規模改修したフードコート&マーケット「デポ」だ。

帝政時代に「宮殿のような車庫」をテーマに建てられた赤レンガの建物群は、5年前に閉鎖されて以降、廃墟となっていたが、文化財に指定されたことを機に、保全しつつ現代風に活用することが決定。いまや1日1万5000人が訪れる場所に生まれ変わった。

モスクワでは最近、古い建造物を活かしたグルメスポットがブームとなっている。先駆けとなったのは、5年前に行われた屋内市場の改装。ソ連時代からモスクワの食卓を支えてきたが、近年では不法入国者の溜まり場や犯罪の温床とも指摘されていたこの市場を、ベトナム料理などの屋台が立ち並ぶ商業施設にしたところ、大人気に。それにならい市内の市場が続々と改装されたのだ。

5年前といえば、ロシアのクリミア侵攻に反発した欧米諸国による経済制裁が始まった頃。一時は生鮮食品の供給が不安定になったが、その後数年をかけ、新たな流通経路を開拓し、国内の食肉業界を発展させたことで、ロシアの食料事情は以前よりも豊かになった。

そして、人気レストランが軒を連ねる新型フードコートの誕生により、それまで高額のコース料理かファストフードしかなかったモスクワの外食は多様化した。

「デポ」はグルメスポットとしては欧州最大の規模。SNS好きのモスクワっ子が、展示されたトロリーバス前に、山積みの野菜やシーフードと一緒に満面の笑みを写真に収め、楽しむ姿が見られる。歴史ある街に、新しい風が吹き始めた。(モスクワ在住)