「第2の人生」の前に「第1.5の人生」への対応を

――続いて、定年前後の年代の皆さんに向けて、ご自身の経験もふまえてアドバイスをお願いします。

 パーソル総合研究所は60歳定年ですから、私はすでに定年を過ぎており、いわゆる定年再雇用の身です。ただ、エイジフリーを掲げているので、能力・意欲・仕事があれば、定年後も働くことができる環境です。もともとパーソル総研に転職したのも57歳の時ですし、年齢のわりには活発に活動しているほうかもしれません。それも、ある程度の専門性あればこそだと思っています。人事分野を専門とする私が仕事先を探したときに、人事の会社であるパーソルと出会ったということです。

 すでに何度か転職を経験しており、定年を過ぎたといってもどこからが第二の人生なのか、いま第何番目の人生なのか、どう数えればよいのか、実際よく分かりません。ただ、転職云々ではなく、収入増やプロモーションを目標の一つとして働いていたころと今とでは、明確にビジネスキャリアのステージが異なります。

 その意味では、リタイア後が「第2の人生」だとすると、その前に「第1.5の人生」があると考えるべきかもしれません。人によるでしょうが、この「第1.5の人生」は思ったよりも長い期間かもしれません。これまで仕事ファーストで過ごしてきた人こそ、この期間をどう充実させ、幸せに過ごすかを考えてモードを切り替えることが大切なのではないかと思います。

 

――「第1.5の人生」は言い得て妙です。続編のテーマにしましょう(笑)。
さて、最後の質問です。今後はどんな調査・研究をなさっていくご予定ですか? 

 

「第1.5の人生」は人によっては、管理職登用適齢期が終わる40代半ばから70歳前後まで25年くらいありそうです。追いかけたいテーマです。ぜひ続編を書かせてください!

 直近では、「仕事基準の給与が日本企業に定着するのか」に関心があります。ジョブ型や職務給という言葉を耳にする機会も増えてきましたが、多くの人は、たとえば人事の担当者から経理の担当者に異動すると給与が変わる、担当する仕事やポジションごとに給与が決まっているというようなイメージを持っているように思います。確かにライン管理職については、個別のポジションごとに給与を決めようとする企業も出てきています。では、専門職はどうか、一般社員層はどうなのかというと、ジョブ型を標榜している場合でもポジションごとに給与が決まっている企業は実際にはほとんどありません。とくに、専門職と一般社員層について仕事基準の給与をどう決めていこうとしているのか、その方向性に対して企業や個人はどうしていけばよいのかを示したいと考えています。

 仕事で給与が決まるとなると、これまで以上に人事ガチャが問題になってくるはずです。私の中では、これも人事ガチャ研究の延長線上のテーマです。

 

――楽しみにしています。ありがとうございました。


人事ガチャの秘密――配属・異動・昇進のからくり』(著:藤井薫/中央公論新社)

意欲をくじく配属・異動、木に竹を接ぐような組織改編……
「現場をわかっていない」「もっとうまくやれよ」と不平不満を募らせる若手・中堅社員の皆さんは少なくないでしょう。「配属ガチャ」「上司ガチャ」が流行語になるゆえんです。しかし、一見運だけで決まるように見える人事という名のブラックボックスに対して実態調査のメスを入れた結果、人事異動や昇進についての各種のパターンをデータが浮かび上がらせました。「人事権を持たない人事部」「一見問題ないミドルパフォーマーが盲点」等々。会社側は何を企図して(あるいは企図せず)人事を行っているのでしょうか?
「人事異動=ザ・人事」の秘密に迫ることで、皆さんのキャリアを考えるための羅針盤を提供します。もちろん管理職や人事担当者の皆さんにとっても見逃せない一冊です