「偶然の出会いもキャリア形成上、無視できない大きな要素」(写真提供:photoAC)

「そこそこの中堅」がなぜ「使い道のないベテラン」に?

――話題を若手から中堅へと進めますと、「目配りされないミドルパフォーマー」と『人事ガチャの秘密』で指摘したことにショックを受ける読者は少なくなかったようです。「そこそこの能力の中堅」は問題がないから放置され、いずれ「使い道のないベテラン」になっていくというシナリオですね。

 この点については、佐々木紀彦さんにインタビューしていただいたPIVOTの動画でも解説したところ、公開2週間で20万回視聴を超えています。「自分も目配りされないミドルパフォーマー」だと感じている人がそれだけ大勢いらっしゃるということだろうと思います。

 会社からすると、ミドルパフォーマーは各部門の戦力としてきちんと機能している「問題ない人たち」で、人数の多さも桁違いです。そのため、どうしても目配り対象としての優先順位は低くなりがちです。さらに近年では、人事の方針としてキャリア自律の推進を掲げる企業が増えています。これは、「会社はもう社員の中・長期的キャリアの面倒を見ることはできないので、自分で何とかしてください」と言っているように聞こえなくもありません。

 実際には日本の雇用法制、雇用慣行下では、企業はいわゆる正社員の雇用責任から逃れることはできませんが、裏を返すと縛りはその一点だけだとも言えます。雇用は何らか保証されるとしても、社員一人ひとりについて処遇が右肩上がりになるキャリアパスを会社が考えてくれる時代はもう終わっています。いまさら会社に言われるまでもなく、自分のキャリアは自分で考えて決めるしかありません。

 ここで大切なポイントは、ミドルパフォーマーは会社から見て問題がないと同時に、本人自身もとくに「問題がない」と思っている、しかも「とりあえず今は」というところです。プレイヤーとして働き盛りで、ある意味、勢いで乗り切れる30代~40代前半は良しとして、その次の年代もプレイヤーとして活躍し続けるためには、それなりの専門性の幅と深さが必要です。一見問題がなさそうに思えるときに、次に向けて専門性を強化するために何をやってきたかが問われるのだろうと思います。

「とりあえず今は問題ない」と思って、漫然と昨日の繰り返しの日々を送っていると危ないかもしれませんね。

『人事ガチャの秘密――配属・異動・昇進のからくり』(著:藤井 薫/中央公論新社)

――耳の痛いご指摘です……。同じように、藤井さんは「『一般社員20年、課長20年、ポストオフ後5年』というのが、会社員人生のリアル」ととらえ、「課長20年時代」の到来を喝破していますが、身につまされる読者は少なくないと思います。マネジメント層が幸せなキャリア、幸せな定年後を送れるようにするために、気を付けたいことは何でしょうか?

 

 たいていの管理職は、50代のどこかでマネジメント職を外れた後、10年くらいプレイヤー期間を過ごしてからリタイアするのではないでしょうか。これは事前に想定できる話です。いざポストを外れて何もできず、その時になって「こんなはずじゃなかった」と思うのは避けたいところです。マネジメント職に就いている間も、「いずれは、またプレイヤーに戻る」ということを常に心の片隅に置いておくほうがよいと思います。

 もちろん、どうしても嫌だということでなければ、ビジネスキャリアにおいてマネジメント職に就くこと自体は有意義なことだと思います。いろいろ苦労が多いとしても、マネジメント職としてチームを率いるほうがダイナミックな仕事ができる場合も多いでしょうし、処遇上も有利です。管理職登用された時に、この先ずっとマネジメント職のままだと思わなければよいだけです。

 少し話は変わりますが、マネジメント職についてはデビュー年齢も重要だと思います。中には課長昇進が40半ばという会社もありますが、遅すぎます。マネジメントにも「マネジメントの専門性」があります。ある程度早い時期から、実践を通じて専門性を習得し、ブラッシュアップしていく仕事のように思います。