藤井 薫氏(パーソル総合研究所シンクタンク本部 上席主任研究員)
「配属ガチャ」「上司ガチャ」が流行語になっているように、若い人たちが「やりたいこと」に「最短ルート」でたどりつきたいという風潮が広がっているといわれています。しかし、人事における「ガチャ」は、若い人たちだけの問題ではありません。中堅、ベテラン、そして定年前後にいたるまで、組織に勤める人たちの人生を左右するもの––そう指摘するのは、人事のプロフェッショナルの藤井薫さん。著書『人事ガチャの秘密――配属・異動・昇進のからくり』は、おもに入社10年目くらいまでの若手・中堅を対象にしていますが、人事担当者や管理職の読者からも支持を集めています。そうした反響をふまえて、会社員人生と「ガチャ」の関係についてお尋ねしました。

若年層のチャンスをJTCは拡大できるか

――藤井さんご自身のキャリアは、ひょんな縁から偶然、人事のプロフェッショナルになったそうですね。「若い人も、最短ルートを一直線に進むのではなく、もっと偶然の出会いに身を委ねればよいのに」という思いはおありでしょうか?

 確かに、やりたい仕事に最短ルートでたどり着けるほうがいいですよね。やりたいことを自分で見つけて、その実現に向けて意思をもって計画的に歩みを進めていくことが理想的だろうと思います。ただ、やりたいことがなかなか見つからない人もいます。それに、長いビジネス人生の中では、やりたいことが変わっていったり、広がっていったりすることが普通なのではないでしょうか。そうすると、偶然の出会いもキャリア形成上、無視できない大きな要素です。

 もちろん、偶然の出会いを待っているだけではダメで、出会いを呼び込めるかどうか、出会いに気づくかどうか、出会いを活かせるかどうか。おそらく、ただ漫然と待っているだけではチャンスを呼び込めず、気づかず、活かせずということになってしまいそうです。日ごろからキャリアに関する感度を上げておくこと、そして、時には自分の直感を信じて決断することも大切ではないでしょうか。

 一方で、ある程度の期間経験してみないと分からないことがあるのも確かでしょうから、キャリアの転機をどのタイミングで判断するのか。遅きに失せず、拙速でもないタイミングを模索してほしいと思います。

 そして、本書ではさまざまな人事異動パターンを解説しましたが、自分はどれに該当しそうなのか。あるいは、本書では取り上げられていないパターンなのか。自分事としてしっかりと考えてみてください。

 

――藤井さんはパーソル総合研究所で手掛けた、大手企業への実態調査(2020~22年にかけて毎年一回実施)において、「タレントマネジメント」や「FA(フリーエージェント)制度」などをヒアリングしていますね。こうした新しい施策の事例は比較的新しい業界に見られる取り組みであり、「JTC(Japanese Traditional Company)」と揶揄されるような伝統的な日本の大企業には見られない動きなのでしょうか。

 

それらの取り組みは新しい業界だけの話ではありません。むしろ、従業員数が多く、長い歴史の中で人事が硬直的になりがちなJTCにこそ必要なものですし、とくにタレントマネジメントについては大企業の方が熱心に取り組んでいます。ただ、課題が多いことも事実です。

異動配置に関するJTCの典型的な課題としては、会社目線で言うと、従業員一人ひとりに目が届きづらいこと、各部門の縦割りが強く全社最適を進めにくいこと、自社のこれまでの人事慣行に縛られやすいこと。そして、伝統的企業であるがゆえに労務構成上も中・高齢層の社員が多いので、若手を活かしきれずにリテンション(離職防止)が問題になったりします。これを若手社員の側から見ると、配属ガチャ・上司ガチャの悩みになったり、なかなかチャンスが巡ってこないという不満になったりするわけです。

JTCの場合は、まずは見える化を進めることです。タレントマネジメントの文脈からすると、誰がどんな強み(タレント=才能)を持っているかを見える化することが出発点です。そして異動配置や昇進昇格などについては、本社人事部と事業部門の役割分担、権限をはっきりさせることと、全社に横串を指す社内公募制度やFA制度などの「手挙げ」の機会を増やすことです。

全社最適視点、各事業部門の意向、個人の希望という3者をどう切り分けて、どう組み合わせるのか。そこで求められる3者のバランスは、従来とは相当に異なるもののはずで、JTCにありがちなしがらみにとらわれず、とくに若年層のチャンス拡大について、自社のスタンスを明確にする必要があると思います。さらに、世代間やジェンダー間での機会の再配分も大きな課題です。