「ごめん、助けて」とお願いすれば良かった
母親を施設に送り届けた帰り道、遠方に住む親友に「やっと、介護から解放された」とメールを送った。「近々、必ず会いに行くから」という返信にウキウキしながら帰宅すると、茶色い下駄箱の上が埃で真っ白になっているのを目にしてしまう。
「こんな汚い状態じゃ、とても親友を呼べない! ってビックリして。疲れてはいたものの、そこから一気に掃除を始めたんです。母の介護中は、断られたら余計につらくなるからと娘には一切頼みごとをしなかったんですが、『窓を拭いて! この引き出しを片づけて!』とガンガン命令したら、すぐ協力してくれた。ズボラで気のきかない子だけど、心根は優しい。母の介護も、私ひとりで抱え込まず、素直に『ごめん、助けて』とお願いすれば良かったのかもしれませんね」
もう自宅に帰ることはないであろう母の持ち物も、娘と整理した。押入れの中身を引っ張り出すと、「美春の入学式に着ました」という手書きのタグがつけられたスーツ、美春さんが子どもの頃書いた手紙や絵が収められた箱、分厚い育児日記が3冊も出てきた。
「それらをひとつひとつ確認しながら、もう、私も娘も大号泣してしまって。娘は『母親って、すごいね。お母さんにもありがとう、だ』とポツリ。嬉しかったな……。結局、娘と『これは全部、いつかおばあちゃんの柩に入れようね』と決めて元に戻し、もう着ない衣類や使わない雑貨だけを廃棄しました」
美春さんと娘の3週間に及ぶ苦労の甲斐あって、母の部屋はすっかり綺麗になった。45リットルのゴミ袋20袋分の衣類や雑貨を捨てた労力、そしてタンスや机など大型家具の処分で約1万円かかったが、片づけたことで得られた思わぬものがあるという。
「母が大事に保管していた『宝物』を目にしてから、娘が積極的に家事を手伝ってくれるようになったんですよ。しかも、バイトの回数を増やして、家に月1万円程度生活費を入れてくれるようになって。たかが片づけ、されど片づけですね」
片づけの威力をまざまざと感じた美春さん。介護中は封印していた自分のためのおしゃれや化粧も、再び始めたという。