もかもを捨てる考え方には共感できない
2年前、自宅マンションの大リフォームを決断した雅美さん(65歳・主婦)。自身がアパレル会社を辞め、夫が定年を迎えようという時、まず考えたのは家のことだった。
「子どももいないし、夫婦二人でゆったり暮らせる、『終の棲み家』を造りたかったんです。気力も体力も充実している今が、リフォームする最後のチャンスだと思って」
約25年住んでいたマンションの間取りを、4LDKから2LDKに変えることに。せっかく新しい空間になるのだから、居心地をよくしたいと思い、工事の半年前から片づけに着手する。もともと整理好きではあるものの、物を捨てられない性分で溜め込むばかりだった。
「始める前に、断捨離関係の本を4、5冊読んだんですよ。そのうえでの結論は、『何もかもを捨てる考え方には共感できない』ということでした。私は、思い入れの強いもの、趣味の着物や茶器は残しておきたい。リフォーム後の『和モダン』の内装に似合う家具や置物も残したい。だから、自宅にある物の半分を処分できれば十分かな、と。それでも、年期の入ったエアコンや冷蔵庫、新居に似合わない椅子や棚などの廃棄費用で、10万円以上かかりましたね……」
もっとも処分に時間がかかったのは、写真だ。約30冊のアルバムと、親族全員の結婚式などの台紙つき写真を入れた3つの衣装ケースが、押入れ1段分を占めていたからだ。困って断捨離経験者の友人に相談すると、『すべてデジタル化する』『全部捨てる』『量を減らす』という3つの選択肢を教えてくれた。雅美さんは『量を減らす』を選び、似たようなカットが複数ある写真は、1枚を残して捨てたという。
「一所懸命ファイリングした手間暇をも無にするのが精神的に苦しかった。それでも、昔のアルバムをめくれば、懐かしさが込み上げてくる。しばらくして、すっかり連絡が途絶えていた学生時代の友人に、約30年ぶりに連絡を入れたんです。一緒に食事をしたらものすごく楽しかった! 写真を整理しなければ、こんな体験もできなかったでしょう」
写真の整理で勢いがついて、旅行のパンフレットや仕事の資料も大量に捨てた。大きな本棚3つ分の本も、ごひいきの小説家の作品、今後手に入りにくくなりそうなもの以外は、すべて処分。嫁入り道具だった本棚ひとつに収まる量に留めた。