区分所有建物の二つの高齢化問題
これがいま、全国的に問題になっている、「区分所有建物の二つの高齢化問題」です。購入当初は若夫婦だった住民も、マンションとともに年を取ります。半世紀前に30代で購入した人たちも、いまや80代、年金暮らしでしょう。子どもが継いでいる物件もあるでしょうが、かつてのニュータウンなど、子どもたちは都心へ出て行き、老夫婦だけが残っている部屋も多いです。
配偶者が亡くなって一人暮らしの高齢者も少なくないでしょうし、中には認知症を発症している単身高齢者もいます(認知症の区分所有者によるトラブルに、管理組合がどう対処すればいいかという、また別の問題もあります)。皮肉なことに、分譲時に満足度の高かった良いマンションほど、所有者が手放さないので住民の新陳代謝が進まず、物件とともに区分所有者も高齢化してしまうのです。
住民の高齢化が問題になるのは、管理費や修繕積立金の値上げ問題だけではありません。築半世紀前後のマンションでは、低層棟でエレベーターがない、設備や間取りが古くて現代の生活に合わない、といった理由から建て替えが検討されます。そんな時、やはりストッパーになるのが、ずっと住み続けて、いま高齢になっている当初の購入者たちです。賃貸に出している所有者のように連絡がつかない(そのため、決議に必要な票集めの邪魔になる)という問題がない代わりに、強硬に建て替えに反対する「反対勢力」になりがちです。
高齢の住民にとっては、将来的な利便性や資産価値を高めることより、現在の住居のほうが大事です。老い先短いのだから、お金と時間をかけて建て直さなくても今の状態でいいじゃないか、仮住まいに引っ越ししている間に亡くなってしまいかねない、という理屈です。これで管理組合の中が建て替え反対派と賛成派とに二分されると、建て替え計画は頓挫してしまいます。
反対派の所有区分住戸については、子の代に継承されてからでないと、話が進まないことになります(建て替えが成功するのは、建ぺい率に余裕があり、駅前など立地が良く、大手デベロッパーが管理組合とともに再開発主体に入るマンションだけです。この場合、余剰床を新規に分譲することで建て替え費用を賄うため、元の区分所有者の負担は減らせます。また、デベロッパーが資金力を駆使して、反対派の区分所有住戸を一つずつ買い占めていき、最終的に、管理組合の建て替え議決に必要な5分の4の賛成票を集める、といった手法を採ることもあります)。