マンション法の改正、国が検討中
さらに問題なのが「所有者不明問題」です。マンションの築造から現在まで、あまりに長い時間が経ったため、区分所有者の死亡で移転しているはずの所有権が相続登記されていないため、いま誰の所有なのかが分からない、といったケースです。判明したはいいけれど、複数人が共同相続した共同所有物件だったりすると、彼ら全員を探し出して連絡を取る必要があるなど、さらに管理組合の手続きは煩雑になります。
このため、来年の国会での成立を目指して、いま国の法制審議会で検討中なのが、区分所有法の改正です。目玉の一つが、建て替え決議の要件緩和です。2023年6月8日にまとめられた中間試案によると、これまで管理組合の「5分の4」の賛成が必要だった建て替え決議を、「4分の3」「3分の2」などに引き下げることが検討されています。建て替え決議を通りやすくし、建物と住民の二つの高齢化に対処するものです。
国交省によると、築40年以上のマンションは2021年末現在で115.6万戸、築30年以上は249.1万戸あり、10年後には築40年以上は約250万戸に達する見込みです。それらの老朽化マンションは、国としても、耐震化を含む長寿化改修か、建て替えを促進させたいと企図しています。住民の高齢化とともに荒れていき、最後は住む人がいなくなってゴーストビルとなった廃墟マンションが国中に乱立するような事態は避けたいのです。
ちなみに、今回検討中の区分所有法改正案には、管理組合の決議に際して、所在が分からない区分所有者や、管理組合総会に参加しない区分所有者らを分母から除くといった案も盛り込まれています。さらに、これまでは建て替えにしろ一棟リノベーションにしろ、存続し続けるしかなかった区分所有建物と管理組合の「解消」(建物を解体して更地に戻し、売却益を区分所有者で分ける)についても、区分所有者の合意によって可能になる、との条文が初めて盛り込まれる予定とのことです。こうした区分所有法の改正案について、国は、建て替え決議に必要な数字についての意見も含め、広く国民の意見を募るパブリックコメントを、先月から9月3日まで実施中です。
ほかにも、所有者不明土地・建物をこれ以上増やさないため、これまでは放置している人も多かった登記の義務化が、すでに法律で決まっています。相続による不動産取得は、相続から3年以内に相続登記を(2024年4月施行予定)、転居による住所変更については転居から2年以内に住所変更登記を(26年4月までに施行予定)、それぞれ申請しなくてはいけなくなります。(登記のたびにお金がかかるので、「引っ越し魔」にはつらい法律ですが、苦笑)
(この項つづく)