その場は笑ってやり過ごしたが、部屋に戻ってもその言葉が頭の中でこだまして、まともに眠れない(写真はイメージ/写真提供:photo AC)
年を重ねるほど、恋愛とは縁遠くなりがちだ。しかし、頼れる伴走者を見つけたり、淡い恋心を抱いたり――人生の折り返し地点を過ぎてから、幸せを見つけた人がいる

船の上で出会い、80歳で事実婚を決意

知人男性から猛烈なアピールを受けて21歳で結婚したマナミさん(88歳)は、3人の子どもに恵まれ、幸せな人生を歩むと信じていた。けれど夫は、モラハラとDVを繰り返す男だった。協議の末ようやく離婚に漕ぎつけたのは、44歳のときだ。その後も生活費や子どもの学費を稼ぐため、必死に働いた。

一度だけ大恋愛を経験したが、相手の二股が発覚してジ・エンド。それから約10年後、ある本でその存在を知り、釘づけになったのが、「世界一周の船旅・ピースボート」だった。「いつか体験したい!」と夢をふくらませたマナミさんは、資金調達のため10年満期の簡易保険に加入。その後、無事に保険金がおり、75歳で積年の夢を叶えた。

当初はパートナーとの出会いを少し期待していたものの、最後まで誰からも声をかけられずじまい。しかし船旅の楽しさが忘れられず、「これで最後」と80歳で参加した2度目のピースボートで巡り合ったのが、8歳年下のタロウさんだった。

「船上で行われた社交ダンスのアクティビティに参加した際、パートナーを申し出てくれたのです。発表会に向けて練習するなかで、彼は自分のことも話してくれて。『僕は会社経営が忙しくて家庭を顧みなかったから、妻に出ていかれたの。そこまでして築いた会社も、自由にしていいよって娘婿に譲っちゃった』と。その執着心のなさと豪快さ……これまで私が出会ったことのないタイプでした。それに、乗客同士の諍いを和やかかつスマートに収める姿を見かけて、尊敬できる人だな、と」

そんなある日、マナミさんは大切な指輪を紛失してしまう。どこを探しても見つからない。タロウさんに相談すると、「誰かが拾って『得をした』と大事にしてくれるのなら、それはそれで指輪も幸せじゃないかな」という答えが返ってきた。

「実は、私もまったく同じことを考え始めていたんです。急激に親近感が増しました」

そして彼が次に口にした言葉に、胸が高鳴った。「僕が新しい指輪を買うから、一緒になろう」。冗談だと思い、その場は笑ってやり過ごしたが、部屋に戻ってもその言葉が頭の中でこだまして、まともに眠れない。3日後、彼に「先日おっしゃったこと、どこまで本気なんですか?」と尋ねてみた。答えは「全部、本気です」。