「驚きと同時に、この人とは何か強い縁があるのかも、彼の気持ちを受け入れてみようって。私は昔から、ピンときたら即行動するタイプなんです(笑)」

それから毎日、二人で話し合った。「僕の生まれ育った九州の田舎で、自然に囲まれて暮らそう」とタロウさんが言えば、「どこへでも引っ越します。でも、相続時に子どもたちに迷惑をかけたくないので、婚姻届を出すのはやめましょう。生活費も折半でお願いします」とマナミさん。共通の揺るぎない意向は、「お互いに自立して、自由を尊重し合う」ことだった。

約3ヵ月間のクルーズを終えた二人は、すぐにタロウさんの故郷で一緒に暮らし始めた。

「若い頃は、相手を自分好みに変えようとしたり、嫌われたくないあまり、無理して相手の意見に合わせたり。結局、《自分》がなかった。今はお互いを尊重できているので、同じ空間にいながら自分の時間を持てるようになりました」

生活を共にしてみると、タロウさんはすこぶる《お子ちゃま》だった。些細なことで喧嘩すると自室にこもり、1時間もすれば鼻歌交じりでリビングに現れる。とにかく自由なのだ。一方のマナミさんも、自由に行動する。カレンダーに予定さえ書いておけば、旅行で1週間ほど家を空けても何も言われない。

「ご飯は作り置きして出かけます。一人のときは料理も億劫で、毎日同じものを食べたりしていた。でも、美味しいと言ってくれる人がいる今は、料理が楽しくてたまりません。

何より、『今日は寒いわね』『そうだね』なんてどうでもいい会話のできる相手がいて、幸せなんです。私に介護が必要になったら迷わず施設に入ると決めていますが、彼のことは最後まで面倒を見ようと思っています」

シングルマザーの私は、独身歴約30年。「恋愛なんて今さら面倒」と思っているクチだ。でも、3人の女性から紆余曲折を経たからこそ得られる恋の醍醐味のようなものを伺い、ちょっぴり羨ましくなった。この先素敵な出会いがあったら、思い切って飛び込んでみようか……?

 


《ルポ》出会いは思わぬところにあった。平凡な日常に恋が彩りを添えて
【1】同級生の意外な告白で自尊心を取り戻して
【2】孤独な日々にワクワクをくれたのは
【3】船の上で出会い、80歳で事実婚を決意