和田先生「定年退職した後であれば、『人づきあい』に惜しみなくお金を使うべき」(写真提供:Photo AC)
現在、日本人の約3割が65歳以上の高齢者です。高齢者は「生産しないしお金も使わない」「社会の負担となる存在」という世間の声を聞くことも少なくありません。そんななか、「元気で自立し消費者としても大きな存在となっているのが今の高齢層です」と語るのは、高齢者専門の精神科医である和田秀樹先生。その和田先生「定年退職した後であれば、『人づきあい』に惜しみなくお金を使うべき」だそうで――。

定年後は「人づきあい」に惜しみなく投資する

「人生=仕事」のような生き方をしていた男性は、定年後、自分の新しい人生にいきなり直面することになるため、戸惑う人が少なくありません。

喪失感を覚えてひどく落ち込んでしまう人もいます。勤めていた期間が長ければ長いほど、そうしたリスクは高くなります。

定年をきっかけに落ち込んでしまい、活動レベルが一気に低下するのは、老化を加速させる大きなリスクになるため、新しい人生に“軟着陸”させる必要があります。

喪失感が仲間を失ったことによるものなら、飲み会でもゴルフでも、定期的に気の合う仲間で集まる機会をつくるなどしてみてはどうでしょうか。同期全員に声をかけるまでもありません。気の合う仲間とだけ交友を楽しめばいいのです。

仮に「自分が会社を辞めたとたん、親しくつきあっていた人が離れていった」といった理由で鬱々としているなら、少し問題です。職場を離れたことで、自分自身を失ってしまったかのように感じているのかもしれません。

でも、こうした人間関係はなくなって良かったと思いましょう。

たとえば「部長のときは親しくしていたのに、対応が悪くなった」というのなら、その相手はあなたの肩書きを見てつきあっていたにすぎません。

退職して肩書きがなくなったおかげで、本当の人間関係をつくるチャンスが増えたと考えることもできます。

趣味の世界でもボランティアでも(もちろん新しい仕事でも)、意見や価値観の合う人、話していて楽しい人と、新たな人間関係をつくっていきましょう。

超高齢化が進む今、60代、70代は喪失体験をもたらすような「人生の節目」が次々と訪れる時期だと言えます。

象徴的なのは、親の介護や死別です。

以前ならこうしたことはもっと若いときに経験することでしたが、「人生100年時代」と言われる今は、60代や70代で体験することが多くなっています。配偶者が病気になって介護することも増えています。

こうしたさまざまな「人生のイベント」は、50代までの心身ともに充実しているときなら、多少はつらくてもなんとか乗り越えられるものです。定年前なら、会社の同僚や総務の人が何かと力になってくれたりしたでしょう。

しかし60代、70代になって、心身の機能が衰えてきた時期に起こると、かなりの負担になることがあります。