航一さんが「ゆりかご」に預けられた際に身に着けていた衣類。今も大切に保管している

航一さんは1年前に実名で、「ゆりかご」出身者であることを明かした。

「小学生の頃から、地元のテレビ局や新聞の取材に匿名で答えてきました。18歳になり成人の節目でもあるし、発言に責任をもって、自分の言葉で『ゆりかご』のことを伝えていかなければならないと思ったのです」

公表後、反響の多くは好意的だった。高校時代の友人からは、「宮津は生徒会長をしたり、陸上部で活躍したりしてきたけれど、大変な思いを抱えて生きてきたんだね」とメッセージが入った。「ゆりかご」出身の子どもたちやその養親とも出会えたという。

里親の家庭は、手探り状態で血縁のない子の養育をすることになる。そして「本当の親は別にいるが、事情があって育てられないので今、私たちが育てている」という「真実告知」をどのタイミングで、どう行うか。覚悟はあるとはいえ、悩む里親も多い。

23年4月、熊本市は「ゆりかご」に預けられた子への真実告知について、調査結果を発表した。養親の67%は子どもに血縁でないことを告知していたが、「ゆりかご」に預けられたことを本人に伝えていたのは18%に留まった。

みどりさんは、「伝える側が子どもを思う気持ちはわかるけれど、嘘は述べるべきではない。洗いざらい話せというのではなく、子どもがいい人生だと捉えられるような伝え方をすべきです」と話す。

当事者の航一さんが言う。「親御さんたちは、『ゆりかご』出身ということを周囲にも伝えられない、相談できない環境にいます。だからこそ今後は僕ら当事者が中心になって、子どもや親も含めての意見交換を行うことが必要になると思います」

実名公表など、航一さんの意思を尊重して見守る両親。恐れずに正直に子どもに伝えたことが、家族の強い絆になっている。