いつだって勝利に飢えている

メダリスト会見で、印象的なシーンがあった。優勝したチェンが中央に座った。その横に位置した羽生は、記者会見の間ずっと、うっすらと笑みを浮かべていた。悔しさを押し殺したような笑顔と、刺すような視線。「ああ、久しぶりに見たな」と思った。これまで何度も目にしてきた光景だった。

初めて見たのは、羽生が初出場した2011年12月のグランプリファイナルで、4位に入った時だった。絶対的な強さを誇るパトリック・チャン(カナダ)の背中を、ひたすら追いかけていた頃だ。

「練習で並んで滑るのが嫌になるぐらい、スケートがよく滑る。自分が4歩かかるところを、2歩で滑りきる。見習わないと」と圧倒された。それと同時に、「いつか、絶対に勝たないといけない」と語った17歳の少年のまなざしは、怖いぐらい鋭い。しかしそれでいて、うれしくて笑いが止まらないのだった。

あれから五輪で2度も金メダルを勝ち取り、「王者」と呼ばれるようになった今も、ちっとも変わっていない。いつだって勝利に飢えている。強いライバルの登場が、何よりのモチベーションになり、闘志に火がつく。これこそが、羽生結弦がトップアスリートであり続けるための最大の武器であり、長所だ。

敗北から一夜明け、羽生は語った。「自分の原点がこのシーズンを通して見えました。やっぱりスポーツって楽しい。強い相手を見た時に沸き立つような、ゾワッとする感覚を、もっと味わいつつ勝ちたいなと思えた」。最大級のモチベーションを取り戻したという意味では、必要な敗北だったのかもしれない。