安倍政治の継承と課題

「安倍氏は西側陣営の一員としての立場を守りながら、外交でかなり独自性を打ち出していた。安倍氏であれば、いま中国にどんなボールを投げるだろうかと考えることがある」=舛添氏

「安倍氏は新型コロナウイルスの対応を振り返り、『政府が指示を出そうにも、地方が動かなかった』と話していた。内政では、こうした目詰まりを解消していく必要がある」=先崎氏

伊藤岸田氏は5月、広島で先進7カ国(G7)サミットを主催し、「核兵器のない世界」の実現に向けて取り組むことを発信しました。また、戦後最悪と言われた日韓関係を改善しようと、積極的に動いています。岸田氏なりに目標を持って、外交や安全保障を進めていると思います。その基盤になっているのは、安倍氏が首相在任中、日本の国力に見合った国際的な役割というものを明確に示して、日本の存在感を高めたことにあるのではないでしょうか。安倍氏のレガシーはきちんと引き継がれていると思います。

ウクライナ電撃訪問(3月)、日韓首脳会談(5月)、G7サミット(5月)©️日本テレビ

吉田外交は内政の延長線上にあると言われます。安倍氏が国政選挙に6連勝して、7年8カ月余りの長期政権を築いたことが、日本の国際的な地位を高めることにもつながりました。  安倍氏は、岩盤支持層である保守派を基盤にしながら、無党派層や若者に支持を広げました。まずアベノミクスで経済重視をアピールします。集団的自衛権を限定容認する安全保障法制のような難しい課題に取り組みながら、働き方改革や全世代型社会保障のような暮らしに関わる政策も適宜打ち出しました。世論調査で内閣への支持が不支持を下回る局面もありましたが、巧みに政権を運営したと思います。

ただ、「やってる感」と評されたように、選挙や内閣改造のたびに看板政策を入れ替えて、エンジンをふかしている感じもありました。少子化対策や格差の是正など、いま一度腰を据えて取り組むべき課題も残ります。

伊藤番組でも、なぜ安倍氏の存在感がここまで大きくなったのかということが議論になりました。安倍氏の政治スタイルはトップダウンで、官邸主導と言われました。長期政権も後半に入ると、人事権を握られた官僚による政権への忖度が見え隠れするようになりました。公文書の改ざんまで露呈したことはとても残念なことです。安倍氏にも、野党との対立をあおり、国会軽視ともとれる言動が見られました。政治にリーダーシップは必要ですが、光が強ければ、影も濃くなります。あるべき統治の手法について、これからも考えていくべきだと思います。

吉田安倍氏の存在感をいまだに感じることがあります。安倍氏が亡くなった後、岸田氏の政権運営はなかなか安定しません。100人まで膨らんだ安倍派の後継会長は空席のままです。安倍氏の大きさゆえですが、幻影に少し惑わされていないでしょうか。政治家は、やるべき仕事と日本の進路を自分の頭で考えて、きちんと言葉にして国民に伝えてほしい。それが安倍氏の功績を受け継ぎながら、課題に向き合うことにつながるはずです。

「安倍派」新会長決定は”先送り”©️日本テレビ
解説者のプロフィール

伊藤俊行/いとう・としゆき
読売新聞編集委員

1964年生まれ。東京都出身。早稲田大学第一文学部卒業。1988年読売新聞社入社。ワシントン特派員、国際部長、政治部長などを経て現職。

 

吉田清久/よしだ・きよひさ
読売新聞編集委員

1961年生まれ。石川県出身。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。1987年読売新聞社入社。東北総局、政治部次長、 医療部長などを経て現職。

 

提供:読売新聞