作家の西加奈子さん(左)と産婦人科医の高尾美穂さん(右)

西 私も日本のシステムに慣れて、甘えていたのでしょうね。最初は何かあるたびに「なんでがん患者の私がこんな思いせなあかんねん?」と思ってました。でも違いますよね。自分の命なんだから、本当は自分で守るのが当たり前で。

カナダの人たちの自己管理はすごいです。たとえばバンクーバーは雨が降り続く時期が長く、うつ病の発症率が高い。でも紹介がないと専門医にかかれない制度なので、皆、ヨガをしたり瞑想したり走ったり、あらゆることをして心身の健康を保っています。

高尾 一人ひとりが健康を守る努力をする一方で、本当に必要な人に専門的な医療を届けるシステム。本来あるべき姿だと思います。

 

神様からの「休みなさい」を受け止めた

西 治療していた8ヵ月間、たしかにしんどかったけど、「闘っていた」感じはないんです。がん細胞そのものが悪意を持っているわけじゃない。そもそも自分の中から出てきたもので、誰かに手渡されたわけではない。

私には胸のしこりが「ここにおるで」と知らせてくれた感覚がありました。なんだか健気で恨めなかった。ただ、「残念だけどあなたとは共存できないんだよ」という気持ちはありました。