突然訪れた別れ、あるいは長患いの末に――。夫との死別という大きな節目を、どう乗り越えればよいのだろうか。第二子の出産間近という幸せのさなか、突然の交通事故で夫を亡くした美智子さん(仮名)が夫の死を受け入れられたのは――。(取材・文=丸山あかね)

留守番電話の赤いランプが点滅していて

「その日の朝、私は笑顔で夫を送り出しました。『いってらっしゃい!』と声をかけると、『君も無理はしないで』と気遣ってくれた。夫の優しい声が今も忘れられません」

佐藤美智子さん(51歳)は、10年前、金融関係の会社に勤務する夫の転勤に伴いパリで暮らしていた。悲劇に見舞われたのは、第二子を出産するために日本へ帰る直前のことだった。

「フランス人の友達がしばらく会えなくなるからと自宅へ夕食に招いてくれたので、2歳になる娘を連れて出かけました。仕事帰りに夫が迎えに来てくれる予定だったのですが、約束の時間を過ぎても来ない。携帯に電話をしても繋がらない。それで、忘れて家に帰ってしまったのかなと、タクシーで帰ることにしたのです。でも夫は帰宅していませんでした。真っ暗なリビングの中、留守番電話にメッセージが入っていることを報せる赤いランプが点滅していて……。不気味な感じだったというか、留守電を聞くのが怖いと思ったことを覚えています」

嫌な予感は的中してしまう。メッセージは警察からのもので、夫が車にはねられ、病院に搬送されたという内容だった。美智子さんは急いで病院へ駆けつけたが、道すがら、「骨折程度で済んでよかったわね」と病室で談笑している様子を思い描いていたという。