(構成◎碧月はる 撮影◎本社 奥西義和)
なにかを決断することで人生は変わる
今回の朝ドラのモデルとなったのは、日本ではじめての女性弁護士である三淵嘉子さん。女性が法曹界で活躍する道を切り開いた第一人者である。
――連続テレビ小説『虎に翼』制作にあたり、物語のテーマを決めた経緯、きっかけについて教えてください。
尾崎:企画を考える前の段階から、脚本を『恋せぬふたり』でご一緒した吉田恵里香さんにお願いしていました。そこからプロデューサーの石澤さんとも一緒に企画を練る中で、三淵嘉子さんを主人公のモデルにしたドラマをつくりましょう、ということになって。「寅子の物語」をみんなでつくっていきました。
――番組に対する視聴者からの反響はいかがですか。
尾崎:昭和の戦前・戦後の時代、女性がキャリアの道を築いていく過程で、様々な苦労に直面するところに共感していただいていると感じます。
石澤:特に印象的だったのは、放送1週目で寅子の進学を反対していた母親のはるさんが、直前までお見合い用の振り袖を買いに行くと言っていたのに、真逆に振り切って六法全書を買いに行くところ。ここは皆さんからの反響がすごく大きかったですね。
「私もやりたいことがあったときに親に反対された」など、似たような体験をされた方がとても多かったようで。寅子の人生に起こるいろんなことが、「私もああだった」と皆さんの記憶を引き戻してしまうらしく、自分のエピソードを書いたり語ったりしてくれる方が多いように思います。
――寅子の幼少期を描かなかったことには、何か理由があるのでしょうか。
尾崎:寅子が女学校を卒業する間際に、法律の世界に足を踏み入れる決断をしたところが、主人公のスタート地点として一番ふさわしかったので、そこから描きはじめました。幼少期になにか運命的な出来事があったから、というわけではなく、ある種平凡で大きな苦労もなく育ってきた人でも、なにかを決断することで人生が変わる。そこが一番重要なポイントだと思ったんです。
――寅子が司法試験に合格した祝賀会の場で、場の空気に迎合せず、怒りをにじませながら自らの思いを主張する姿が印象的でした。
尾崎:寅子は、一緒に学んできた女子部の人たちをはじめ、多くの女性の思いを背負ってあの場にいました。そこであふれた感情は喜びではなく、世の中の矛盾に対する怒りだったのだと思います。台詞にもあった通り、「志半ばで諦めた友。そもそも学ぶことができなかった、その選択肢があることすら知らなかったご婦人方がいること」を寅子は知っていた。あの場に行き着くまでに寅子が積み重ねてきた経験や思い、怒りが、あそこで発露したんです。