「パンティオロジー」というアート活動を始めた秋山あいさん(撮影:本社写真部)
さまざまな女性たちのパンティとそれにまつわる物語を「収集」しているアーティストの秋山あいさん。なぜそのようなことを始めたのでしょうか?(撮影=本社写真部 構成=古川美穂)

33人、99枚のパンティから見えてくる人生のドラマ

子どものころから、モノを集めては並べるという行為が大好きでした。一番古い記憶では、6歳のころ、小さな石を模造紙の上にびっしり並べて楽しんでいたのを覚えています。

この本は、そんな私の「収集癖」が生きた一冊です。フランスと日本を中心に、さまざまな年齢・職業の女性33人が愛用するパンティを描き、それにまつわるエピソードや、人生、性に対する本音をインタビューして書いた原稿をまとめています。

きっかけは、ささやかなことでした。ある日、自分のパンティを描いてブログにアップしたところ、思いがけず反響があって。そこで「ほかの人はどんなものをはいているのかな?」と気になり、始めたのが「パンティオロジー」というアート活動です。

本には収めきれなかったのですが、約100人の方に取材すると、さまざまなことが見えてきました。まず、女性は人生の場面によって、下着を替えているということ。そして、パンティを選ぶ基準はその人の置かれた状況や文化に拠っているということです。最初に私が考えていたよりも、そこには深く広く、興味の尽きない世界が広がっていました。

取材では、「セクシー」「リラックス」「お気に入り」というテーマで一人につき3枚のパンティを持参してもらいました。結果として、その人の日々の暮らしぶりや個性、生き方などがよりくっきりと浮かび上がったと思います。

たとえばセクシーパンティは「恋をしているときに上下セットで買うことが多い」という方もいれば、「ドキッとしてもらいたくて、旅先で夫の目の前で購入」という女性も。

いっぽうリラックスパンティでは、Tシャツをリメイクして手縫いでふんどし型パンティを作った方もいます。読者から反響があったのは、時間をかけて大事に「ヨレパン」を育ててはいている女性。「ようやく4枚育て上げたが、それぞれヨレ方に個性があるから面白い。ヨレパンがないと生きていけない」という心の叫びに共感する人が多かったですね。

あるダンサーの女性は、12歳で初潮を迎えたとき、自分のお年玉も合わせてお祖母さんに買ってもらった思い出の1枚を見せてくれました。高級ブランド「シャンタル・トーマス」のパンティは今でも彼女の宝物で、ショーのときしか身につけない。彼女はこの下着が似合うボディが欲しくて理想の女性像を追求し、プロのダンサーになったそう。小さな布に、こんなにもたくさんのドラマが隠されているのが面白くって。

『パンティオロジー』秋山あい・著

最初は自分の周りにいる人たちから取材を始め、知人を介して少しずつ範囲を広げていきました。下着を通して、その人の生き方を見たい。なので、魅力を感じた人には私から声をかけて話を聞くケースもあります。

私が通うジムに、とてもチャーミングな年配の女性がいらっしゃいます。「私の100人目の女になってください」と取材を申し込んでいるのですが、もう少しというところで、「いずれね」とはぐらかされてしまい……男性が女性を口説くときの気持ちがわかりました(笑)。でも諦めずに、アプローチを続けていきますよ!

次の目標は、300人。これからはアジア諸国やアメリカ、南米など、地域を広げていきたい。さらに取材を続けて、最終的には世界各国の女性が登場する分厚い書籍を作れたらうれしいですね。