「私が挑戦するにはあまりにも山が高すぎるのではないかというのは率直に思いました」
元宝塚歌劇団の雪組トップスターで、退団後も抜群の歌唱力と厚みのある演技で活躍中の望海風斗さん。『next to normal』、『ガイズアンドドールズ』、『ドリームガールズ』、『イザボー』、『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』と、数々のミュージカルでその存在感を発揮してきました。そんな望海さんが、25年春、初めてストレートプレイに出演します。記念すべき作品は、20世紀最高峰のオペラ歌手と謳われたマリア・カラスの物語『マスタークラス』。この作品を自身にとっての「高い山」と表現する望海さんだが……。

私の大きな挑戦がひとつ始まるぞ

舞台『マスタークラス』は、マリア・カラスの大ファンであった劇作家テレンス・マクナリーの作品。カラスがジュリアード音楽院で若きオペラ歌手たちに行った「マスタークラス〈公開授業〉」の講義録をもとに、カラスの栄光と挫折の人生が描かれています。

1996年にブロードウェイで初上演され、同年度のトニー賞・最優秀演劇作品賞を受賞。その後世界各国で上演されてきました。日本では黒柳徹子さんの主演で 1996 年、99 年にパルコ劇場が上演されています。今回、26年ぶりに、日本で上演されることになりました。演出を手掛けるのは、現代演劇界で最も実力のある演出家の一人である、森新太郎さん。主演のマリア・カラス役は、宝塚退団後、さまざまなミュージカルの舞台で活躍中の望海風斗さんが務めます。

果たして、望海さんの作品に懸ける意気込みは?

―「マスタークラス」への出演が決まった時の心境を教えてください。

「ずっとミュージカルをやってきましたが、宝塚歌劇団を退団し色々な作品を経験していく間に、お芝居をしっかりやってみたいという気持ちも出てきました。そのような中で、ストレートプレイに挑戦しようとなったときに、候補のひとつとして読ませていただいたのがこの『マスタークラス』でした。

初めてのストレートプレイで、会話劇ということでもなく、ほぼ一人で台詞を発している時間が長い作品。一度読んだだけでも難しい作品だと、私が挑戦するにはあまりにも山が高すぎるのではないかというのは率直に思いました。

ですが、だからこそ、決まって嬉しいというよりは、挑戦できるチャンスをいただけるのであれば、是非挑戦したいという想いのほうが勝っていて。これで私の大きな挑戦がひとつ始まるぞ、という気持ちでした」

『マスタークラス』

―マリア・カラスという人物を演じることについてはいかがでしょうか。

「まず、マリア・カラスのことは、素晴らしいオペラ歌手であるということしか存じ上げなかったんです。マリア・カラスは、すごく昔の歴史上の人物ということでもなく、今でもファンの方が多くいらっしゃる、実在していた方。どの役もそうではありますが、まず私自身がマリア・カラスという人を深く知っていかなければという段階です。

イタリア語が自然に話せるようにレッスンも始めていますし、歌うシーンがあるわけではないけれど、彼女を知る上でオペラのレッスンもしていただいています。

ですが、〈マリア・カラスを演じる〉というよりも、ここに描かれているマリア・カラスが何を伝えたいのか、ということをしっかり自分の中に落とし込むことが大切なのかなと思っています。

この人物はどうしてこういう言葉を発しているのかということを、ひとつひとつ理解していった先に、私のマリア・カラス像が出来上がるのではないかと思っているので、台本をしっかり読み解きながら、演出の森新太郎さんと一緒に言葉を深めていきたいですね。それが積み重なっていった結果、〈最終的にマリア・カラスになっている〉ということを目指したいです」

―今回初めてタッグを組む、演出の森新太郎さんの印象を教えてください。

「これまで森さんとご一緒されたことのある方から、演劇愛が強く、台本が真っ黒になるくらい、稽古はじめの読み合わせの時点でイントネーションから何度も台詞を発するお稽古をされる方だと聞きました。知らないうちに台本を手放せるようになっている、と。これまでにない経験なんだろうなと、身の引き締まる思いです。

ですが実際にお会いしてお話をさせていただいた際に、とても好奇心をもってこの作品に立ち向かってくださっているということを感じたんですね。それで、聞いていたお稽古の様子も、だからこそなんだと合点がいきました。森さんの情熱にしっかりついていきたいと思っています」